逝く夏の苦しみ
私からさだめの話を聴いた寺原田は神妙な顔だった。岡田と和久も冷静だが、心中、思うところはあるだろう。三島も同様だ。
インクブルーの硝子の茶器に、温かい緑茶を淹れて出すと、四人共、美味しそうに飲んだ。寺原田の膝にはちょこんともーちゃんがいる。気に入ったんだな。私は開け放たれた縁側の向こう、去る夏を見送る。去る夏、逝く夏、枯れゆく森。ハイネだったか。
「その、さだめ君や白夕さんという人には、ことさんや劉鳴さんでも敵いませんか」
寺原田がおもむろに切り出す。私は微苦笑した。
「良い勝負かもしれませんね。さだめさんは何とか……。白夕さんが問題ですが、師匠が、自分があたると言っています」
「劉鳴さんが。それは心強い」
「はい」
「課長はともかく、俺たちがいても足手まといになりそうですね」
「いいえ。かたたとらコーポレーションは今後も我々を殲滅すべく動くでしょう。戦力は多いに越したことはありません。基本的には単独行動を避けて、集団行動を心がけてください。今まで通りです。楓さんや恭司さんもそれで狙われました」
「てか、あたしでも役不足なの?」
三島が不服そうに言う。
「いいえ。けれど、決して甘い相手ではありません」
「まあ良いけど。最近、自由時間が増えた分、鍛錬もしてるし」
「鍛錬……」
「うん。あたしと、クマ課長と、岡田と和久で。必要でしょ?」
「心強いです。そこに撫子さんと芳江さんも加わって良いでしょうか?」
「ああ。関西弁の? あたしは良いっすよ」
「僕にも依存はありません」
寺原田が頷くと、同意するように岡田と和久も頷いた。私は撫子と芳江を呼んで、事の経過を語った。二人共、成程と言うように聴いている。
「イケメンと手と手を取り合い鍛錬とか、何のご褒美やねん」
うっとりする撫子に、多少、和久と岡田が引く。
「阿呆。ご褒美やない。気ぃ引き締めていけ」
個と個で結びつくことが必要だ。温和且つ蟻の這い出る隙間もないくらいに密な繋がりが。結局のところ、悪意を以て動く集団を相手にするには、こちらもそれに応じるしかない。悪意は好きではない。私は敵意を以て、かたたとらコーポレーションを意識の中で捉えていた。
図らずも私が紐帯となり、皆を導くことになる。
インクブルーの後、唐紅に目線を移す。夏が逝けば森は枯れるのだろうか。ならば永遠に夏が去らずにいてやれば良い。そうは思うものの、それが出来ないことが夏の苦しみでもあるのだと、私にも解っていた。
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