光と影
白刃を見せたかと思いきや、すぐに恭司は納刀した。楓は、周囲の気温が低くなったように感じた。
恭司が納刀した鞘から氷の華が弾け飛ぶ。それはさだめを急襲した。退くも、完全に逃れ切ることは能わない。
さだめが負った傷から、愛らしい氷の小花が咲く。
さだめも抜刀した。氷の小花を鬱陶しそうに払うが、簡単に取れるものではない。舌打ちして間合いを取り、構えようとするが恭司が食らいつく。
「相伝の二。籠の鳥」
無数の白い羽根がさだめに降り注ぎ、貼り付いて動きを封じようとする。金属音が響き、恭司とさだめの刀が交差した。さだめの動きは鈍い。天響奥の韻流の技を連続して浴びた為だ。
「こちらも披露せねば非礼というもの」
さだめが、幾分、楽しそうにそう告げる。劣勢にも関わらず、今のさだめにはまだ余裕がある。恭司を、礼を尽くすに足る相手だと認めたさだめは、刀を斜に構えた状態で告げる。
「裏闇通り」
すると、さだめの刀から数本の黒い鉄柱が生じ、恭司に向かった。恭司はこれをひたすら避ける。楓はさだめと自分の間合い内にはいない。存分に動ける。鉄柱を避けつつ、恭司はさだめに接近した。元が身の軽い恭司である。すばしこく動くのは造作もなかった。只、鉄柱が皮膚を擦った後、擦った箇所の傷が黒く変化したのにはうすら寒い思いがした。
斬り口から腐り落ちるという話を思い出したのだ。そうして気を抜いたのが仇になった。一本の鉄柱の先端を、腹部にもろに受けてしまった。
吹っ飛ぶ。苦痛を堪え、吹っ飛びながらも空中で体勢を立て直し、宙を二回転して再びさだめに近づく。
「鉄の命よ、彼の者の血を吸えよ」
さだめが陶然とした表情で告げる。さだめの刀が細分化し、恭司に集中する。鉄片の一つ一つは生き物であるかのようにくねくねと動きながら恭司に貼り付き、文字通り〝血を吸おうと〟する。天響奥の韻流は、コトノハと一体となり成立する流派。裏天響奥の韻流もまた、コトノハで仮初の命を与えるくらい、容易いらしい。
そこからは猛烈な斬り合いが始まる。火花がそこかしこで散って、目視出来ない速さだ。
「癒。璧。防」
澄んだ少女の声が、膠着状態の天秤を動かした。さだめの眉間に皺が寄る。
「男同士の仕合を邪魔するか」
言いながら、楓のコトノハの、癒が恭司に、璧と防が自分に向かって処方されたと察する。その使い分けはコトノハの処方に余程、慣れていなければ使えない。楓は荷物ではなかった。立派な援護射撃手だった。そして恭司がここまで天響奥の韻流をものにしているとは予想を超えていた。さだめは引き際を知り、恭司の刀の鍔に刃先を引っ掛けて飛ばす。一瞬、恭司が怯んだ隙に、さだめは「煙」と呟き、走り去った。
とりあえずの撃退は為ったと思った恭司は飛ばされた刀を拾って鞘に納めると、楓の傍に寄った。
「怪我はないか」
「うん。恭司君。とりあえずうちに来て? 今、見たこと、感じたことをことさんに話して」
「解ってる」
答えながら恭司は楓をじっと見ていた。楓は元より渦中の人間なのだから、今のように戦闘に関わることになるのも止むを得ない。しかし、恭司は楓を可能な限り、安全圏に置いておきたいと願った。
その願いは、ことも同じ筈なのだから。
評価、3ブクマありがとうございます。
さだめを書いていると、同情を禁じ得ません。




