命の歌
白夕の話は、隼太から電話で聴いた。成程、〝裏の宗主〟。あの貫禄はそれゆえか。茄子の肉味噌挟みが殊の外、美味しい。おっと。美味に気を取られがちになるのは私の悪い癖だ。私は、まだ日が出ている内から、桃色に染められた客間で皆より先に一献、始めていた。茄子を調理したのは聖だ。
「やってますね」
ふらりと、庭に現れる劉鳴殿。桃紅を背負って、白髪が僅かに染まっている。白髪染めみたいだ。
「毎度毎度、貴方はうちの庭にどうやって入り込むんですか」
「ことさん……。今、僕の髪を白髪染めで染めたようだと思ったでしょう」
「それはそれ、これはこれです」
「そうですか。思ったんですね」
ふう、とわざとらしく嘆く溜息を吐きながら、劉鳴殿は勝手知ったる様子で縁側から上がり込む。今日は渋い、黒の単衣を着ている。引っ掛けているのは薄手の青いロングカーディガンだが、これが妙に様になるのが劉鳴殿だ。
「ゲソのフライもありますよ」
ほれほれとばかりに、劉鳴殿が透明のパックを掲げる。夕方特売のシールがでかでかと貼られている。そしてそのまま私の向かいに座るので、私は渋々、彼の分の盃も用意した。
来るだろうとは思っていた。風にコトノハを乗せて飛ばしたのは、他ならぬこの私だ。あむ、とフライに食いつきながら、劉鳴殿は実に美味しそうな表情をする。料理人冥利に尽きるだろう。
「白夕とはまた、風情のあるお名前ですねえ」
「呑気に言ってる場合ですか」
「もちろん呑気じゃありませんよ。飲んでますけどね。僕がやりましょう」
一瞬、劉鳴殿の言葉を捉え損ねる。劉鳴殿は尚もフライにぱくつきながら言った。
「白夕は、僕が殺すと言ったのです」
「架橋さだめは……」
くすり、と劉鳴殿が笑い、赤い瞳を酷薄に細める。
「おや。当代様はご自身の手を少しも汚したくないと」
暗に、それは私の仕事だろうと告げる。私は黙って盃を傾けた。
秋の虫が早くも歌い出す。命の歌を歌っている。
死にたくないと鳴いている。
評価、ブクマありがとうございます。
エアコン要らずは良いですね。
ことさんちの近所のスーパーに奇人変人がうろうろしてると思うと
中々に愉快です。




