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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第四章
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ジョーカーは二度笑う

 まずい、と感じたのはさだめではなく恭司だった。彼は直感で悟っていた。

 〝この少年は遣い手だ〟と。そしてこちらには楓というハンデ。暗い空を烏が数羽飛んでいく。あの中に隼太はいるだろうか。隼太が、隼太にこの危難を知らせてくれれば或いは。そこまで考え、恭司は己を叱咤した。いつまでも隼太を頼る習性が抜けていない自分が情けなかった。

穿(せん)

 恭司は楓を抱いて素早く出来る限り後方に跳躍する。地面に穴が穿つのを見てゾッとする。隼太でさえこんな物騒なコトノハを、人相手に処方はしなかった。地面に降り立ち、怒鳴る。

「楓! 行け!」

「嫌、私も戦う」

 この言葉を聴いた恭司の頭は一瞬、空白になった。そして、楓が音ノ瀬本家の次期当主候補という事実を思い出す。彼女がそれだけの実力を持つことも。しかし、楓は剣術の至高を極めたことと違い、コトノハ以外の戦闘の心得がない。恭司は、く、と唇を噛んだ。迷いは捨てる。

「俺を援護してくれ」

「解った」

「おやおや。お嬢ちゃんも戦うの~? 俺は女子供にも手加減しないよ」

 にこにこと、何がそんなにおかしいのか、さだめがゆっくり二人に歩み寄って来る。恭司が飛び蹴りを放ち、楓が同時にコトノハを処方した。

(ばく)!」

 二人の連携は見事に功を奏し、さだめは防御不能で頭から吹っ飛んだ。坂から転がり落ちて、止まる。数秒、彼は動かなかった。動けないのだ。今の内に。恭司がコトノハを処方する。

(ばく)

「……(かい)。いってえ、くそが」

 さだめがゆっくり立ち上がった。恭司は驚愕する。頭を、恭司の蹴りは直撃したのだ。致命傷となってもおかしくないくらいの、手加減のなさだった。少なくとも脳震盪は起こしている筈の。

「脚が当たるのに合わせて小声で()を処方した。なけりゃ危なかったぜ。ふうん。只、庇護されてる雛鳥たちかと思ったら、やるじゃん」

「だってそうでなければ、ことさんの傍にいられないもの。いる資格ないもの」

 答えたのは楓だった。

「ことさんが無条件に私を、恭司君でさえ守り慈しんでくれてること、知ってるから。だから、そんなことさんに、甘えてばかりはいられないの」

 さだめの切れ長の目が大きくなる。

 彼は夜空に向けて哄笑した。腹を抱えてげらげら笑う。本当に可笑しそうだった。

「傑作! おもしれえよ、お前ら」

 次のさだめの行動を見て、恭司のこめかみからつう、と汗が流れた。

 さだめは、先程まではなかった日本刀を所持していた。

 〝隠刀〟。

 天響奥の韻流の技の一つ。なぜ、さだめがそれを。

「まあ、とりあえず、俺と一緒に来てもらおうかな。二人共」

「……断れば?」

「んー? お嬢ちゃんを犯して殺してあんたも四肢切断、てとこかな」

 恭司は観念する他なかった。自分はともかく、楓を傷つけられるのは我慢ならない。

 空には烏の代わりに蝙蝠が、ハタハタと舞い飛んでいた。



レビュー、3ブクマありがとうございます。

めっきり秋めいてきましたねえ…。

でも陽射しはまだまだ暑い。

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