ジョーカーは二度笑う
まずい、と感じたのはさだめではなく恭司だった。彼は直感で悟っていた。
〝この少年は遣い手だ〟と。そしてこちらには楓というハンデ。暗い空を烏が数羽飛んでいく。あの中に隼太はいるだろうか。隼太が、隼太にこの危難を知らせてくれれば或いは。そこまで考え、恭司は己を叱咤した。いつまでも隼太を頼る習性が抜けていない自分が情けなかった。
「穿」
恭司は楓を抱いて素早く出来る限り後方に跳躍する。地面に穴が穿つのを見てゾッとする。隼太でさえこんな物騒なコトノハを、人相手に処方はしなかった。地面に降り立ち、怒鳴る。
「楓! 行け!」
「嫌、私も戦う」
この言葉を聴いた恭司の頭は一瞬、空白になった。そして、楓が音ノ瀬本家の次期当主候補という事実を思い出す。彼女がそれだけの実力を持つことも。しかし、楓は剣術の至高を極めたことと違い、コトノハ以外の戦闘の心得がない。恭司は、く、と唇を噛んだ。迷いは捨てる。
「俺を援護してくれ」
「解った」
「おやおや。お嬢ちゃんも戦うの~? 俺は女子供にも手加減しないよ」
にこにこと、何がそんなにおかしいのか、さだめがゆっくり二人に歩み寄って来る。恭司が飛び蹴りを放ち、楓が同時にコトノハを処方した。
「縛!」
二人の連携は見事に功を奏し、さだめは防御不能で頭から吹っ飛んだ。坂から転がり落ちて、止まる。数秒、彼は動かなかった。動けないのだ。今の内に。恭司がコトノハを処方する。
「縛」
「……解。いってえ、くそが」
さだめがゆっくり立ち上がった。恭司は驚愕する。頭を、恭司の蹴りは直撃したのだ。致命傷となってもおかしくないくらいの、手加減のなさだった。少なくとも脳震盪は起こしている筈の。
「脚が当たるのに合わせて小声で癒を処方した。なけりゃ危なかったぜ。ふうん。只、庇護されてる雛鳥たちかと思ったら、やるじゃん」
「だってそうでなければ、ことさんの傍にいられないもの。いる資格ないもの」
答えたのは楓だった。
「ことさんが無条件に私を、恭司君でさえ守り慈しんでくれてること、知ってるから。だから、そんなことさんに、甘えてばかりはいられないの」
さだめの切れ長の目が大きくなる。
彼は夜空に向けて哄笑した。腹を抱えてげらげら笑う。本当に可笑しそうだった。
「傑作! おもしれえよ、お前ら」
次のさだめの行動を見て、恭司のこめかみからつう、と汗が流れた。
さだめは、先程まではなかった日本刀を所持していた。
〝隠刀〟。
天響奥の韻流の技の一つ。なぜ、さだめがそれを。
「まあ、とりあえず、俺と一緒に来てもらおうかな。二人共」
「……断れば?」
「んー? お嬢ちゃんを犯して殺してあんたも四肢切断、てとこかな」
恭司は観念する他なかった。自分はともかく、楓を傷つけられるのは我慢ならない。
空には烏の代わりに蝙蝠が、ハタハタと舞い飛んでいた。
レビュー、3ブクマありがとうございます。
めっきり秋めいてきましたねえ…。
でも陽射しはまだまだ暑い。




