かたたとらはまだ終わらない
劉鳴殿が縁側に座り、腕を組んで目を閉じている。
深い思考の海に潜っている。訳ではなく、居眠りしているらしい。ぴったりした鮮やかな青のタートルネックにジーンズ。相変わらず若々しいファッションである。このままでは風邪をひくと思い、カーディガンを掛けようとするとぱち、と赤い目が開いた。庭の下草には赤い落ち葉が幾枚も重なっている。空は紫を含んだ青。風は透き通っている。
「ことさん。ありがとうございます」
「いいえ」
「貴方が逝くことにならずに本当に良かった。僕はほっとしています」
「ご心配をおかけしました」
「いいえ。けれど、これでは終わらないでしょうね」
私の危惧を劉鳴殿が代弁する。
「威信を潰されたかたたとらコーポレーションが、報復に出ない筈はない。今まで以上の警戒が必要でしょう。寺原田さんたちにも注意を喚起して」
「はい」
「かなでが動いているらしい」
その名前に私は身じろぎした。天響奥の韻流、十代目宗主候補だった人の名だ。
「目に余るようなら僕が片をつけましょう。ことさんがかかずらうことではない」
「かなで殿は、お元気なのですね」
「元気も元気。貴方から十代目の座を奪おうと躍起になっているようですよ」
「お元気ならそれで良い。生きているなら、道の模索しようもあります」
「寛容ですね。命を拾った効能ですか。いや、貴方には昔からそんなところがあった」
むしゃむしゃ。
劉鳴殿が、私が横に置いたカステラを頬張った。牛乳を飲んで満足そうである。
庭の赤がかなでの髪の赤と重なる。
苛烈な気性だった。
私が天響奥の韻流十代目宗主と指名されてからは随分と荒れていた。
「ことさん。もしゃもしゃ。かなでは貴方を殺す積りでもしゃもしゃ来ますよ」
カステラを食べ終わってから話して欲しい。
「ですから貴方も情けは無用。それでなくともかたたとらコーポレーションの件はまだ落ち着いたとは言えないのですから」
劉鳴殿はぐいーっと牛乳を飲み干して、コップをタン、と縁側に置いた。
生きるとは困難の連続である。
2ブクマありがとうございます。
剣呑な空気が漂って参りました…。
そして絵を少し修正しました。




