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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第三章
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悲願成就

挿絵(By みてみん)

 雅常殿は夢に現れなかった。私は、夢も見ずに昏睡に近い状態で深く眠っていたのだ。目覚めると楓と聖の顔があった。

「ご気分は如何ですか」

「少し微熱がありそうですが悪くないです」

 聖は物言いたげだった。

 私の寿命がどうなったのか、知りたいのだろう。そして来世の行方も。私に明確な答えはなかったけれど、憑き物が落ちたように明朗な心を探ると、自ずと答えは知れた。

「確証はありませんが、もう大丈夫だと思います」

 聖と楓の双方から、力みが取れた。楓はどこか茫然としている。

 楓は寝室の戸を開けると、そこに待機していた恭司の胸に飛び込んだ。

 あれ。そうなるの?

 母代わりとしては寂しいではないか。しかしその代わりのように、聖が私をきつく抱擁した。荒々しく唇を重ねてきたので、これは楓がいなくて良かったかもしれないと頭の隅で思った。

「生姜粥でっせ~」

 撫子の声に聖がぱっと離れる。

「いやん、聖様の漢気、この撫子、網膜に焼き付けましたでえ」

 ばっちり見られていたらしい。生姜粥の香りは、私をほっとさせるものがあった。よく見れば撫子の目元が赤い。……私の無事を喜び泣いてくれたのか。私の手が、この大らかで優しい女性の肩に自然と伸びた。撫子を緩く抱く。

「心配をかけました。撫子さん。ありがとう」

「……こと様」

 ぶわ、と撫子の両目から涙が溢れた。彼女はおいおいと泣き続け、生姜粥はすっかり冷めてしまったけれど、美味しかった。じとー、っと部屋の戸の隙間からこちらを窺っていたのは芳江である。独占欲の強い彼は、相手が私であっても、撫子を渡したくはないのだ。思わず苦笑する。

「撫子さん、未来の旦那様がそこに」

「ん? ああ、芳江。おったんかい」

 ずびいいいい、と鼻を強く噛んでから撫子があっけらかんと応じると、芳江はむっとした顔で私と撫子の間に割って入った。

「こと様はまだご病身や。疲れさせたらあかんやろ」

「あ、ああ、せやな。せやな……」

 再び、涙の洪水。今度はこれを芳江がしっかり抱き締めた。尤も、撫子が大柄な為、腕が背中で交錯しない。仕方ない。私はその場にいる皆に向けて言った。

「近い内に床上げします。一族を集めて、宝珠を使う祈りは成就したと宣言します」



評価、ブクマありがとうございます。

長い道のりだったなあと思います。

これで何事もなく過ぎれば良いのですが←

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かったですー(;_;) 500話目前ですね。
[一言] ほっとしました。ことさん大好きなので、、 このまま何事もなく、美味しいもの食べて酒飲んでてほしいです。
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