数式は紅色
コンテナの屋根から劉鳴が降りて来た頃には、趨勢は決していた。劉鳴は仕合っていた老人を殺した。そうでなければ自分が死んでいたからである。
「コンテナの鍵は」
「これだよ」
劉鳴の問いに、やや憂いを帯びた表情で聖が銀色の鍵を差し出す。開錠する。重い扉が開く。中には宝珠が生き物のように煌めき、息衝いていた。
風が聖たちの首尾を知らせる。私は安堵の息を漏らした。釣忍がそんな私をあやすように鳴る。楓もまだ起きていて、もーちゃんと共に縁側で私の隣に座り、風を聴いていた。客間には恭司と秀一郎がいて、そんな私たちを見ている。彼らは念の為の警護役だ。私は額に手を置いた。多少、脱力している。額は熱く、まだ熱のあることを知らせた。
「ことさん。もう、首尾は判ったようですし、お休みください」
「聖さんたちを出迎えたいのです」
「……」
出迎え、礼を言い、労いたい。
私のその意思が通じたのか、秀一郎はそれ以上は何も言わなかった。
やがて空間転移した撫子たちが帰還した。皆、返り血を浴びている。返り血で良かったと思う私は罪深いだろうか。
「風呂を沸かしています。入ってください」
聖と劉鳴の血の汚れは特に酷く、彼らの激闘振りを如実に物語っている。もーちゃんが彼らの足元でうろうろしている。客間の座卓には宝珠の山。まさに宝の山である。
「百八に、届く筈です」
聖が言葉少なに語る。私はうん、と頷いた。楓が抱きついてくる。抱き留めて、背中を撫でる。大丈夫。もう、きっと大丈夫。
「今度は宝珠を置く部屋には十重二十重に結界を張りましょう。麒麟君にも来てもらって」
秀一郎の提案に反論する者はいない。
劉鳴と聖が先に入浴した。
艶を乗せた風が吹く。紅色の暗い艶だ。人の命が流れた。それゆえの風の色合い。
私はその風に吹かれながら、ゆっくりと意識を手放した。
ブクマありがとうございます。
因みに撫子はモーニングスターを武器としているので、
頭がかち割れていようが半身が抉られていようが気にしません。




