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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第三章
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スキンケア

 私のコトノハは物の役に立たなかった。結果として二条を動かしたのは、楓が必死に処方したコトノハだった。冷静な二条が、楓の誠心誠意の処方によるコトノハを、服用したのである。

「二条君が動きましたか」

 翌日、ことの首尾を知る為に来た寺原田が、感慨深そうに言う。今、彼は縁側で、私の隣に座っている。くれぐれも身体を冷やすなと、浴衣の上から厚め生地のウールのストールをぐるぐる巻きにされた。浴衣にウール。些かちぐはぐである。

 風がざわめいていた。これからの予兆に不安を抱いているのか。はらり、はらりと桜の紅葉した葉が散る。

「物言いは素っ気ないですが、情のある人ですね」

「はい。彼女は、恵まれた人間ですが、それゆえに負う苦しみもありました。そこはことさんと似ているように思います。懸念されるのは、彼女の背信を知った時の片桐社長の反応です」

「いざとなればうちで保護します」

「そうしてください。……頑張り屋で、意地っ張りなところもあるから」

 そこもことさんと似ていますねと笑って、寺原田は紅葉の意匠の練り切りを一口食べた。今日の茶は蕎麦茶だ。独特の風味が快い。

「生きてくださいね。ことさん」

 寺原田の表情は慈愛に満ちて、父が父らしい人であればこのようであろうかと考えさせた。

「不遜かもしれませんが、僕はあなたを娘のようにも思っているのです。少なくともまだ、散って良い命ではない」

「……貴方が。貴方たちが、そのように私の命を惜しんでくれることが不思議です。そんな大層な人間でもないのに」

「大層な人間でなくては惜しんではいけませんか? 素朴な優しさを持つ人を、惜しんではいけませんか。貴方はもっと、ご自身の価値を知るべきだ」


 寺原田のコトノハは、私の肌からじわりと浸透した。私は無力だ。救いたくても救えない命が多くあった。それも関係ないのか。無欠の人間でなくても良いのか。寺原田は、蕎麦茶を飲んで、美味しいですねと言った。 



ブクマありがとうございます。

誰にも、他では替えの効かない何かがあると思うのです。

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