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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第三章
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君が先に逝くということ

 遅咲きの桔梗が一輪、庭に咲いている。

 何とも言えずあえかな淡い青紫に陶然とする。今日はよく晴れてコトノハの聴こえも良い。薄赤く染まった庭に、孤高に咲く青紫は、私にある種の頼もしさを感じさせた。励まされたように思った。

 大海が、ここのところよく動いている。風が知らせた。私を救おうとしているらしいが、情緒不安定な彼の行動には不安が残る。隼太がよく律してくれれば良いのだが、そんな隼太もまた暴走しかねないところがあるので、何とも対応し辛い。

 ジリリリリリン、と電話が鳴ったので、聖を制して私が出る。ちなみに座卓で撫子と芳江はもっちゃもっちゃと塩豆大福を食べている。もーちゃんがその横でころころんと転がっている。

「はい。はい、……それは、貴方たちだけで? ああ、大海さんも。聖さんや師匠にも声を掛けて……。 解りました。くれぐれも気を付けて」

 チン、と受話器を置くと、聖が赤い目で問いかけて来る。撫子たちも、もっちゃもっちゃしながらこちらを見ている。

「岡田さんたちが二条さんに、宝珠の在り処を聴き出せないものかやってみると。その立役者には私をご指名ですが」

「危険やないんですか」

 もっちゃ、ごくんと呑み込んだ撫子が訊く。

「彼らはかたたとらコーポレーションにいた時、気の許せる仲間同士のように接していたそうですから。大海さんも同行してくれるそうですし、聖さんか師匠もついていてくれれば問題ないでしょう」

 聖は考える表情だ。

「なんなら俺らが行きましょか?……ん~。役不足か」

 芳江の言葉に苦笑いする。万全を期そうと思えばやはり聖や劉鳴殿あたりが望ましい。玲一でも良いが、彼は彼で多忙だ。

「大海さんて、音ノ瀬隼太の父親ですよね。その、奥さん亡くしてちいと気の触れた。大丈夫なんですか?」

「実力に関しては折り紙付きですよ。隼太さんが同行して手綱を握っていてくれれば尚、安心なんですけどね」

 芳江が真顔になって湯呑みの緑色の水面を見る。

「なあ、撫子」

「なんや」

「お前、俺より先に死ぬなや」

「縁起でもないな。それにあんたは気い触れるとか繊細な性質やないやろ」

「それでもや。それでもや……」

 この時、聖と芳江の目に浮かぶ色は同じだった。

 誰より愛しい女性を亡くすこと。

 そのことについて思いを馳せ、大海に小さくない同情の念を寄せたのだと、私には解った。



ブクマありがとうございます。

先立たれる辛さを味わうことは、老いも若きも

恐ろしいことでしょう。

また、ムーンライトのほうに、隼太と大海のBL作品を

投稿しております。『散る咲く紫陽花』というタイトルです。

抵抗のない方はどうぞ。

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