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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第二章
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赤いポスト

 雨が降り始めた。

 劉鳴は紺色の単衣を着て、その中、傘も差さず佇んでいる。長い白髪も濡れ、三つ編みにした毛先からは雫が滴っていた。彼は天を仰いだ。唇が、動く。

「おいで。僕を真っ先に排除しようというのは賢明な愚行だ。僕も少しばかり焦っていてね……。手加減はしないよ」

 住宅地は雨の歌に閉じ込められて道は無人だ。その道に劉鳴は立ち、そして彼の誘いに乗るように、スーツ姿の男たちが現れた。それぞれ、手に得物を持っている。

「僕は君たちを侮蔑する。人の命より権威権力を優先させようとする、その冷酷を」

 劉鳴が抜いた。そこまでを知覚した凡そ五名の男たちは、次に血しぶきを上げて倒れた。雨が流血と混じる。唯一生き残った、最年少であろう男に、劉鳴は顔も見ずに告げる。

「片桐社長に伝えなさい。僕を本気で相手取るなら、相応の覚悟が必要だと。今、君が見たありのままの光景と共に」

 男は憤るよりも明らかに怖気づいていた。劉鳴は、神か妖怪の類かと本気で疑った。動けない男に、劉鳴が初めて顔を向ける。唇のほんの端に笑みの欠片を置いて。

「早くお行き。命は粗末にするもんじゃない」

 その男も何等かの異能を使えるのかもしれないが、到底、劉鳴に抗しようと思える自信はなかったのだろう。同僚たちの亡骸を置いて走り出す。一刻も早く、遠ざかりたかった。音ノ瀬劉鳴という化け物から――――。

 バシャバシャという足音を聴きながら、劉鳴は刀の血脂を拭うと鞘に納めた。劉鳴は動かない。赤い瞳はずっと下を向いている。彼は長命ゆえに多くを見送る。しかし、ことは自分より後だと、そう信じて疑っていなかった。このままではその妄信は覆されるだろう。そして劉鳴はそれを好まない。


「君、優しいね」


 不意にかかった声に、流石の劉鳴も驚く。

 音ノ瀬大海が転がる斬殺死体を冷静に検分していた。

「苦しませない殺し方をしてる。ずたずたにしてやれば良かったのに。磨理を苦しめる奴らなんて」

「音ノ瀬大海さん」

「うん。君は音ノ瀬劉鳴だろう? 隼太が話していたよ。ねえ。一網打尽にするなら僕と今から向こうの本拠地に行こう?」

 劉鳴は数秒、呆気に取られてから苦笑した。

「人を無闇に殺すと、後で怒られますよ」

「じゃあ君、怒られるね」

 周囲の死体を指さして言った大海に、確かにそうだと劉鳴は可笑しくなった。

「そうですね。……命を誰より重んじる、人ですから」

「とりあえず傘に入りなよ。ずぶ濡れじゃない」

 大海はそう言って、劉鳴に自分の差していた黒い傘を差しかけた。礼を言って大人しく傘に入る。そう言えば自分もこの男も妻を亡くしているのだなと思う。その後の在り様は随分と違うが。

 示し合わせた訳でもないが、二人共、音ノ瀬本家への道を辿る。雨に濡れる赤いポストに、合羽を着た男の子が手紙を入れている。住所が水で滲まなければ良いがと劉鳴は思う。そんなささやかなことを気に掛ける劉鳴だが、必要であれば苛烈に動く。今回はその苛烈さが必要だったのだ。



評価、ブクマありがとうございます。

何気に初対面な二人。

同年代か劉鳴が少し上ですが、二人とも若作りです。

毎日投稿に無理があると感じてきたので、隔日か不定期投稿に

変えようと考えています。クオリティーを落としたくないという

思いをご理解ください。

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