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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第二章
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卵雑炊

 目覚めた私は茫漠としていた。額が熱い。熱が出ているのかもしれない。鼓膜のあたりに渦巻く空気がぼわぼわとして水中にいる時のようだ。アンティークの時計を見れば時刻はとうに午前九時を過ぎていた。

 とんとん、と戸がノックされる。

 返事をすると楓が入って来た。私を見て、安堵と少しの驚きを面に出す。葡萄酒色のワンピースが可憐でよく似合っているなど呑気なことを考える。

「ことさん。良かった。目が覚めたんだね。おはよう」

「おはようございます、楓さん。すっかり朝寝坊をしてしまいました」

 私が言うと、楓は強くかぶりを振った。

「熱があるんだもの。安静にしてなきゃ。今ね、ひーくんが、そろそろことさんが起きるかもしれないからって、卵雑炊を作ってるよ」

「そうでしたか」

 互いに言い知れぬ不安を抱きながら、しかし決してそれを口にしない。口にしたら最後、悲しみに呑まれてしまうからだ。猶予は少ないなどと、私たちは認めたくなかった。楓が障子戸を開けると、明るい青が容赦なく射し込んで来た。昨夜は雨が降っていたが、今日は秋晴れの好日らしい。さっと濡らされた景色は、水彩絵の具で着色された画用紙を思わせた。

 楓が引っ込むと、聖が土鍋を載せた盆を持って来た。盆を私の布団の横に置き、案じる瞳で私を見る。

「お加減は如何ですか」

「熱が少しあるようです」

「お食べください。何はともあれ、精をつけなくては」

「はい。心配をかけてすみません」

「……なぜ、貴方が謝るのですか」

 苦渋に満ちた声に顔を上げれば、聖が悲しみと憤りの色を湛えた目で私を見ていた。憤りは私に向けたものではなく、私に振りかかった運命に対してのもののようだ。

「聖さん……」

「昨夜、音ノ瀬隼太と、かたたとらコーポレーションの雅山郷太が仕合いました。双方共に軽傷を負い引き分けたとのこと」

「そうですか……」

 闘っていたのか。あの男が。私が安穏と寝ている間。宝珠を得る為に?

「雨に、濡れたでしょうね」

「……そうかもしれませんね」

 聖の声がやや遠い。

 彼は少し違うことを考えているようだ。

 隼太に、雅山を殺して欲しかったのだろうか……。もしそうであれば、そんな望みを聖に抱かせる私こそ誰より罪深い。

 それなのに、卵雑炊はふわりとまろやかで温かく、私を甘やかすような味だった。



ご飯もの、麺類、大好きです。

出汁の効いた雑炊、良いですよね。

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