父の心
「父は……、そんな素振りは少しも」
「数人殿なりに思うところがあったのでしょう。かく言う僕も、ことさんには知られないよう頼まれました。自分は凡才だが、ことさんには天賦の才があると言って。二重に才を持つ娘を誇らしく思っているようでしたが、僕は、ことさんの荷の重さを思うと素直に喜べませんでした」
「寺原田さんに天響奥の韻流を教えたというのは」
「あ、申し遅れましたが、かたたとらコーポレーションと音ノ瀬家は、取引をしていたことがあるのです。その縁で、数人さん……とは知り合いました。……寡黙で不器用な方でしたが、まさかことさんのお父上とは」
「早くに父だと教えてくだされば」
「すみません。お名前も存じ上げなかったんです。天響奥の韻流九代目宗主の知己だと仰るばかりで。何を見込んだのか解りませんが、僕に手ほどきしてくれました」
何を考えていたのだろう。
権威主義の父は、私に剣才があり、天響奥の韻流の後継に望まれたことをとても喜んでいた。自分もその流派を使うとは一言も言わなかった。ましてや、音ノ瀬でない人間に剣術指南しているなど。
青い風が吹いた。
その風は、客間に停滞していた空気を一新してくれた。しかし、まだ、滞留する雰囲気は剣呑なまま。
「我が子可愛さかそれとも」
劉鳴殿が呑み込んだ言葉の続きを、私は予測した。予測出来てしまった。
それとも、嫉妬か。
「こればかりは、手に負えるものではありませんからね」
聖は無表情に劉鳴殿の声を聴いている。恐らく彼は今、沈思黙考している。聖が、私の両親を余り良く思っていないことは知っている。不穏な思惑を育んでいたことも。もし。もし父が、それすら承知で、いつか自らの手駒として使う為に寺原田に稽古をつけたのだとしたら?
私はもーちゃんを招き寄せるとぎゅっと抱き締めた。
父は私をも敵視していたのかもしれない。朝な夕なに成長する娘を見ながら、倒すべき相手と、見なしていたのかもしれない。
蝉が今日もわしゃわしゃ元気に鳴いています。
あのエネルギーを少し分けて欲しいです。




