そして秘密は降り積もる
久々に体調の良かった私は、周囲の人たちにくれぐれも無理はしないようにと念押しされて、平服で過ごしていた。鳴った呼び鈴に反応していち早く玄関に出たのも私だ。そこにはちょっと困ったような顔の寺原田が立っていた。真紅の液体の入った硝子瓶を手に持っている。
「お久し振りですね。どうぞ、お上がりください」
「起きていらして良いのですか」
「今日は具合が良いのです」
「そうですか……。しかし油断はいけませんよ」
廊下を進みながら、まるで聖たちと同じようなことを言う寺原田が、私は可笑しかった。聖が早速、茶を淹れている。
客間に二人して着座し、落ち着く。
「岡田君たちは余り、お役に立てなかったようで」
「いえ、彼らの存在が駄目押しとなりました。とても助かりました」
「なら、良いのですが。あの、これ、僕の作った薔薇酒です。丁度、まろやかな風味の頃合いです。よろしければご賞味ください」
「嬉しいです。ありがとうございます」
庭からの光が斜めに入り込んで、客間の陰影を作る。光は透明のようで、ごくごく、淡白い色が乗っているように見える。釣忍が鳴り響く。その、告げた内容に、私は軽く目を瞠った。
聖が茶とおからクッキーを出して、当然のように私の隣に座る。聖は、秀一郎たちに対する程には、まだ寺原田たちを信頼していない。牽制と、値踏みの意味合いも含めての着座だ。
「奥様や、お子さんたちはお元気ですか」
「はい。音ノ瀬さんには過分な報酬まで頂きまして、申し訳ない限りです。妻などは、その額に驚いておりました。すみません、僕は不調法なもので、どうもこういう下世話な話までしてしまう」
「お金は大事なことですよ」
「そう言っていただけると助かります。うん、美味いなあ」
おからクッキーを齧った寺原田が、やっと相好を崩した。食べるもの、口に含むものの力は大きい。身体の内側に直接、作用する為だ。内実と表面、伴って人となる。もーちゃんが早速やって来て、寺原田の膝にちょこんと座っている様子が愛らしい。この、和んだ空間を壊したくはなかった。けれど私は確認せずにはいられないことがあった。ゆるりと睫毛を上下させる。
「寺原田さん」
「はい」
「天響奥の韻流。指南を受けたことがおありですね」
ブクマありがとうございます。
おからクッキーはヘルシーで美味しいですね。
今日はいつもより高く発熱したので、ストックが
あって幸いでした。




