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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第二章
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情勢ゆえに

 これは撤退だな、とさしものかささぎも思った。分家兄弟ですら荷が重いのに、和久や岡田までは手が回らない。その思考はアーサーも同様のようだった。金色の糸を上着の内側に仕舞う。

「あれ? やんないの?」

 日本刀を引き摺り出した岡田がさも残念そうに言う。

「やんないし。莫迦じゃないの。戦力差の計算も出来ないの」

 かささぎが辛辣な物言いになったのは、岡田が全て承知の上で、わざわざ尋ねたからだ。かささぎとアーサーの姿が、淡く儚く消えてゆく。空間転移だ。藤一郎は深追いを避けた。岡田たちの能力があれば可能だろうが、こちらもそれなりに負傷している。相手が撤退するならそれでも良い。

「嫌、ほんと俺たち、何の為に駆け付けたの。音ノ瀬分家のおにーさんたちのピンチを知ってわざわざ来たのに」

「悪いね。無駄足を踏ませて。先に本家に行っておいてくれ。僕は何か食糧を見繕って行くよ」

「兄さん。治療を」

「ああ」

 コトノハの処方で傷を癒された藤一郎は、足取り軽く去って行った。後には晃一郎と和久、岡田が残される。

「……じゃあ、行こうか」

 いつもは無口な和久が渋々、そう促した。


 私はずっと風を聴いていた。藤一郎も晃一郎も無事。岡田と和久が参じてくれた。それらの事実にほっとする。客間に戻ると、聖、撫子、芳江、楓が心配顔で私を見て来るので、思わず苦笑する。

「心配要りません。私の身体も、藤一郎さんたちも」

「かささぎ、言うたか。えらい遣い手やなあ。一度、俺の杖術を指南して欲しいわ」

 顔に似合わず好戦的な芳江がのんびりと言う。私は少し考えてみた。芳江とかささぎだとどちらが勝つだろう。芳江には杖術の他にコトノハもある。一概には断じられない比較だ。

 晃一郎と岡田、和久を出迎えた聖が戻ってくる。

「お疲れ様です」

 私の労いの言葉に、晃一郎は深く頭を下げ、岡田と和久は会釈する。

「藤一郎さんは料理上手なんですよ。お昼は期待して良さそうですね」

 晃一郎が眉をひそめた。そうした表情をすると、特に父親である玲一に似て見える。晃一郎のその表情は、非難ゆえではなく、私を案じてのものだと知っている。もーちゃんがぽよん、ぽよんと跳ねて来て、晃一郎にタックルした。晃一郎は思わぬ伏兵に目を丸くしている。

「もーちゃんです。気に入られましたね」

 そして私は少しも親切でない説明をする。もーちゃんは、ぽよよよん、と晃一郎の身体を上ると、その頭に落ち着いた。

 ……良いんだろうか。それで。生真面目な美形の頭の上にもーちゃん。些かならずシュールな光景だった。



ブクマありがとうございます。

いやあ。蝉、鳴きますねえ。

眠いです。

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