憂愁と優秀
金の糸が迸る。鋭く、それは狙い違わず晃一郎に向けられた。
晃一郎は本家への礼儀ということで、ノーカラーの紺色の麻ジャケットを着ていたが、その麻が数か所、弾けるように破れた。
つい、と練り上げられた糸の一本を、藤一郎が人差し指の腹で撫でる。ふう、と笑い、藤一郎はアーサーたちに告げる。
「僕一人で君たちを相手取ることも可能だが、ここは可愛い弟に花を持たせよう。晃一郎。そちらは任せて良いかな?」
「無論」
違和感を覚えたのはかささぎだ。藤一郎は敵の力を見誤る人物ではない。自分にまだ余力があることも知っているだろう。なのに、一人で自分とアーサーを相手取る? 思いついた想像に、かささぎは鳥肌立った。全力を投じていないのは、藤一郎も同じなのだ。つまりはまだ、力を温存していると。
誰も彼もがモンスターに見えて嫌になる。だが事態は変わらない。ならば自分は藤一郎に注力し、アーサーに晃一郎を任せよう。晃一郎は、優男の長男より、父である玲一に似ている。男らしく整った精悍な顔立ち。アーサーが再度、糸を放つ。剛力にして切れることのまずない糸を、晃一郎は掴み取り、更には引き寄せるという裏技に出た。糸はそのものが凶器だ。肌を裂き肉を破る。ゆえに晃一郎の行為は、アーサーにとって驚天動地であった。
「弟君は大丈夫かい」
こちらはこちらで命の遣り取りを藤一郎相手に続けるかささぎが、尋ねた。美しい微笑が返る。
「晃一郎は、僕ら三兄弟の中で最もコトノハの処方に長けていてね。心配するだけあいつに失礼というものさ」
厄介だな、とかささぎは心中で独り言ちる。
そこに事態の力関係を決定づける声が割り込んで来た。
「どもどもー。元・かたたとらコーポレーション庶務課の岡田でっす」
「……和久だ」
かささぎとアーサーが、盛大な舌打ちをしたくなったのも無理はない話だった。
評価と3ブクマありがとうございます。
蝉の声がものすごいです。
夏ですね……。




