がらくたのような感傷でも
微風が、藤一郎の髪を揺らした。
余り良くない風だ。人の不安を煽り、嘆きを呼ぶような。ことの延命は叶わないのだろうか。
休日、ことの行きつけの喫茶店で、ゆっくりコーヒーを飲みながら、藤一郎は秀麗な面立ちを曇らせる。女性的な美貌に憂いが加わり、何とも言えない色香が漂う。
今、ことを喪うのは痛い。
行方知れずとなり、長年、一族の気にかかるところであった音ノ瀬隼人。彼が一族から逐電した後のことも判り、孫息子の隼太とも、微妙なバランスでありながら協調関係を築けている。そして、隼太の意向をきっかけに、隠れ山や花屋敷に、コトノハを処方する能力を持つ人々を受け容れる体制を整えた。音ノ瀬一族は、ことを筆頭にして大海に漕ぎ出した船だった。その先頭たることを、ここで喪えば、頓挫する計画が数多あるだろう。
そしてそれらの実利的な問題を抜きにして、藤一郎はことを一族の長として敬慕していた。末弟である秀一郎の、ことに対する恋情は知っている。兄として哀れと思いつつ、相手が悪いと判じる。
副つ家の人々は、一族の中で本家とは別に神聖視される存在だった。白い髪も赤い瞳も、得も言われぬ神秘性があり、尊崇を集めるに十分だった。
その、聖も。
嘆くだろう。殉死の可能性すら、藤一郎は考えていた。そればかりは許されないとも。最悪の場合、ことが亡くなれば、次の音ノ瀬家当主はまだ若い楓だ。補佐するには聖の助力が何としても欠かせない。しかし。
こくり、とコーヒーを嚥下する。
それは藤一郎の視点であり、聖の気持ちを尊重したものではない。
孤独と、孤独で、奇跡のように巡り会った二人だ。一方が死ねば、遺されたほうは片羽をもがれた鳥のような苦痛を味わうだろう。
逝くのであれば共に逝かせてやりたい。立場や、義務を取り払った、藤一郎の本心だった。勘定をテーブルに置き、席を立つ。ベルを鳴らし硝子戸を開けて外に出ると、やはりあの不穏な風がまた吹いていた。物憂い面持ちで歩いていると、向かいから白いコート、赤いネクタイの、かささぎが歩いて来るのが見えた。
次は19日0時の開店となります。
今しばらくお待ちくださいませ。




