有用
赤や黄色で染まる筈の樹々の葉が、青や紫など本来は有り得ない色をも帯びて舞い落ちる。楓には、そんな風に、有り得ない色が見えることが時々あった。特に支障のない、癖のようなものだと本人は認識している。ゆえに、秋の葉は、楓にとって錦秋以上に色の洪水だった。
隣を歩く恭司はどうだろうと考える。
買い物に行くと聖に告げると、聖はごく当たり前のような顔で、では恭司君と一緒に、と言った。ことが臥すようになってから、恭司は頻繁に音ノ瀬本家を訪れるようになった。ことの見舞い以上に、楓の護衛を鑑みての聖たちの差配らしい。先を歩く恭司の、ジャンパーの裾をつん、と摘まむ。恭司が何でもないことのように振り向いた。
「どうした?」
「ごめんね」
「何が」
「一番に選べなくて」
「ばあか」
恭司はそんなことはとっくに知っていると言った屈託ない笑顔を見せた。恭司は辛くはないのだろうか。一番の人に、一番に選んでもらえなくて。それともそんな考えはおこがましくて、自分は恭司の一番ではないのだろうか。隼太が先、だろうか。そう考えると、胸がチリ、と痛む。解っている。これは嫉妬だ。自分はことが一番の癖に、恭司が他を選ぶのは嫌だなどと、何て我儘なんだろう。
「花屋敷に連れられて来たお前は、ちっぽけで顔色が悪くて、不安そうだった」
恭司が語るのは、もう何年も前の話だ。
「俺にとってはどうでも良い。隼太が連れて来たのなら、〝有用な〟ガキなんだろうと、そう思った」
隼太は楓を、ことを釣る囮に花屋敷へと攫ったのだから、その認識は間違っていない。しかし、楓の心は翳りを帯びた。
「まさか、そのガキが、今度は俺にとって〝有用〟になるだなんて、考えてもいなかった。お前は、隼太と同じくらいに、俺に変革をもたらした。だから、俺はお前が少し怖かった」
楓が目を見開く。
強い恭司が。自尊心の高い恭司が、自分を怖いと言った。
強風に煽られ、葉が舞い落ちる。色とりどりだった葉が、今はなぜか鮮やかな赤一色に染まっていた。
ブクマありがとうございます。
今日も暑い一日でした。
水分をしっかり摂って、乗り切りましょう。




