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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第一章
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南瓜コロッケ二つ

 らしくなく、焦っている自覚が隼太にはあった。元凶は音ノ瀬ことだ。あの女が、早々にこの世から退場しようとしているのが悪い。苛立ち、爪を噛む。歩く道の少し先にいた黒猫が、そんな隼太を金色の真ん丸な目で見てから立ち去った。宝珠を集めるのには思いの外、骨が要った。これなら違法行為に手を染めたほうがずっとましだ。突き抜けるような蒼天の下、羊に似た雲がふわふわ浮かび、風は緩く吹いている。雨の予兆はない。

 その平穏さがまた、隼太の気に障った。大体が、と思う。聖が不甲斐ないのがそもそも現状を招いたのではないか。惚れているなら死ぬ気で守れと言うものだ。彼は実際、一度、死んだ身ではあるが。そしてそれが要因でことが今現在、死にかけている。

 鬼兎が。

 命を容赦なく降り注ぐものだなどと、したり顔で語ったあの白髪のアルビノが。好いた女一人助けられずに手をこまねいている。嘲笑に足る有様ではないか。

 惣菜屋が近づくと、何かを揚げる時特有の油の匂いがした。小さな店だが奥行はそこそこある。待ち時間が長い客は座れるように長椅子も置いてある。

「南瓜コロッケ二つ」

「はいよ! 〝南瓜だとちょいと時間かかるけど〟」

「なるべく急ぎで」

 言うと隼太は札束をカウンターに無造作に置いた。それを横目で確認した店主が、揚物の手を休めず浅く顎を引く。これで終了だ。

 隼太は南瓜コロッケを受け取ることなく店を後にした。あの惣菜屋は情報屋が本業だ。いくつかの符牒で遣り取りし、知りたいこと、調べものを依頼する。そんな店は、実は少なくない。おおっぴらに情報屋を謳う店もあるにはあるが、大抵、その実務能力は凡庸で、隼太の望むレベルに達しない。その点を鑑みれば、贔屓にしている惣菜屋の情報網は確かだった。宝珠関連の情報を中心に網を張れと、最近はそればかりを依頼している。あちらもそろそろ釣り針が動く頃だろう。

 顔を上げれば先程の黒猫が、いつの間にか至近距離にいた。小動物にしては珍しく隼太に臆せず近づき、頭を脚に擦りつけると、機嫌良さそうに尻尾をリズミカルに振りながら去って行った。



ブクマありがとうございます。

実はあまり南瓜コロッケが得意ではありません。

チーズコロッケが好きなのですが、自分の好みばかりを

反映させるのも何だなと思い、南瓜コロッケにしました。

何て七夕と縁のない内容……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隼太最近ツンデレ期……。
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