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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第一章
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私に見える世界

 その日に起きたことは関係者各位に通達され注意喚起を促された。かささぎ、布帛、布帛の許嫁の能力はこと細かに伝聞、各自備えることとされた。私は楓を学校にこれまでのように通学させるべきかどうか悩んでいた。一秒が、一瞬が、得難い時期である。けれど、彼女の通学中、授業中にでも何があるか解らない。恭司に四六時中、貼り付かせることも出来ないのだ。

 苦渋の末、私は楓をしばらく休ませることにした。その理由も、一切の誤魔化しなく伝えた。楓は、うん、解ったと言い、頷いた。それどころか、ごめんね、ことさんとさえ言った。

「……何がですか、楓さん」

「私を休ませるかどうか、すごく悩んでくれたでしょう。何が一番、私の為になるか、すごく考えてくれたでしょう。だから、ごめんね。ありがとう。大好き、ことさん」

「…………」

 大きくなったと思った。深くにも、胸に込み上げるものがあり、それを抑えようと必死だった。この子は、いつも、守ろうとする手の中で、既に私を守っているのだ。小さく大きな手で。

 腕を伸ばした。

 楓の華奢な身体を抱き締めた。もう、とうの昔に、守られていたのは私のほうだった。楓が、私の肩に額を摺り寄せる。

「ことさん、大好き。ずっと大好き。あの家から連れ出してくれた時から、ことさんは私の、お母さんよりももっと大事な人になったの。私ね、ことさん。ことさんの為なら何でも出来るって思う。本当だよ」

 それはきっと事実で、真実で。溢れそうな想いに、私は歯を食い縛った。

 寝室の違い棚には、ビー玉やおはじき、そして蝉の抜け殻。

「楓さん、見ていてくださいますか」

「うん。何を?」

「私の決して諦めない姿を。泥を啜り、木の根を齧ってでも、貴方の為に生き抜こうとする、無様で懸命な私の姿を」

 楓は肩から顔を離し、私の顔を見上げた。綺麗な澄んだ黒目だ。

「ことさんは、絶対に無様じゃない。ことさんはいつでも、とっても綺麗なの。どんな時でも。そんなことさんを、私はいつでも見てる」


 小さく、ごく小さく、釣忍の音が聴こえた。



我ながら残酷だなあと思います。

情愛が深ければ深いほど、別離の悲しみもまた

深いですよね。

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