花の笑いに籠の鳥
黒と白の鋭角な柄のだぼっとした上着に、細身のジーンズ。靴はハイカットスニーカー。そんなやんちゃな若者めいたファッションであっても、劉鳴から放たれる猛者特有の空気は隠しようもなかった。
「音ノ瀬劉鳴か」
「うん。そうですよ」
「佐原布帛だ」
「律儀だね」
「貴方には礼を尽くさねばなるまい」
この布帛の言葉は秀一郎の立場を失くしていたが、秀一郎に不服めいたものはなかった。それだけの力差が自分と劉鳴の間にはある。己の力に決して自負がないとは言わない秀一郎だが、天響奥の韻流先代宗主を前に、五分の力量などと言う程に慢心はしていなかった。
ふいと劉鳴の姿が消えた。目を、一瞬閉じて、開くまでの短時間。劉鳴の持つ刀の刃は布帛に薄皮の一枚くらいは斬られる位置にあった。布帛が布でこれを防ごうとするが、防ぎ切れない。劉鳴の刃の強靭さが、布帛の布の頑健さを上回っている。血がしぶいた。
「相伝の一。花の笑い」
劉鳴が歌うように告げる。成程、布帛の流す血は花びらが舞うようであった。しかし布帛にも迷いがない。布を傷に素早く巻き付けると、また新たな布を取り出した。この間、数秒にも満たない。劉鳴は小首を傾け、そんな布帛を見ていた。余裕からのことではない。追撃を許さない気迫が布帛にあったからだ。
「良いですね。若いって」
布帛は奇妙な表情になった。劉鳴も外見からすれば十分に若く見えるからである。だが、今はそんなことは些末事だ。この強大な敵、そして秀一郎もいる。加えて自分には許嫁という〝荷〟があるのだ。明かに劣勢だった。戦略的撤退を考える。
「相伝の二。籠の鳥」
思考が布帛に隙を生んだ。真っ白な鳥の羽が頭上から降り注ぎ、それらは布帛に貼り付き行動の自由を奪った。
「わお、ピンチじゃん、布帛―」
「来るのが遅い。そう思うなら何とかしろ。音ノ瀬秀一郎の〝捕獲〟班のメンバーだろうが」
苦情を言われてかささぎはへら、と笑った。赤いネクタイを緩める。
「そうね~。じゃあまあ、頑張りましょうかねえ」
今日も暑い一日でした。
一人、また一人と参戦者が増えていく。
劉鳴と聖のBLとか妄想して本当に申し訳ないです。




