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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
天響奥の韻流編 第一章
454/817

朧呼ぶ剣の人

 固い地面に美女を寝かせるに忍びなく、秀一郎は白いジャケットを脱いで地面に敷き、その上に彼女を寝かせた。布帛は特に何の感慨もなくその光景を見ていた。秀一郎の体勢が整うまで待ったのは、フェアプレイ精神の為せる業だろうか。白い帯状の布をパン、と目の前に張る。

「君をここに繋ぐ」

 布帛が宣言すると、秀一郎の身体が意図せずして布のほうに引き寄せられた。

(ぜつ)!」

 秀一郎の処方したコトノハに、布は破れこそしなかったものの、幾分かのダメージを受けたことが見て取れた。それでも布帛は意に介さずといった様子で布をコートから取り出し、布は秀一郎を取り巻こうと動き続ける。埒が明かない。白い布は無尽蔵に布帛のコートから生み出されるようだ。

 秀一郎は絶、の他に、(だん)(せつ)、などのコトノハも処方した。しかしそれらに類する単語が尽きると、また元の絶に戻った。白い布は確かにダメージを受けているが、処方されるコトノハに耐性がつきつつあることが窺われた。

 布を掻い潜って布帛に接近する。繰り出した拳は布帛の腹にめり込みはせず、綺麗にかわされた。異能に次いでこの体術のポテンシャル。青いドレスの女に勝るとも劣らぬ絶技で秀一郎の隙を突いて掌底や蹴りを繰り出す。これらに応戦する秀一郎を、虎視眈々と白い布が狙っている。

 実質、二人を相手にしているようなものだった。女を眠らせておいてまだ幸いだったと思う。白い布はよく見れば純白ではなく生成で、麻が混じっている物のようだった。やがて布はついに秀一郎の身体を搦め取った。

()

「無駄だよ。その布は宝珠にも似た特別な神器だ。おいそれと破損出来ない」

 冷徹な顔で語る布帛の目に勝利の余韻などはない。秀一郎相手に、そんなものに浸っていてはこちらが喉笛を食い千切られかねない。秀一郎がそれでも次のコトノハを処方しようとした時、急に身体が楽になった。地面には切断された布が落ちている。

「やあ、こんばんは」

 にこやかに告げたのは天響奥の韻流九代目。

 音ノ瀬劉鳴だった。

 滲む朧月は今にも泣き出さんばかりの風情だ。




評価ブクマありがとうございます。

満を持しての師匠登場です。

秀一郎も劉鳴に就いて学んでいた時期がありましたが、

私生活が忙しくなった為に剣道から離れました。

彼には素質があったので、劉鳴は特にそのことを残念がりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流麗で確かな日本語は読んでいて気持ちが良いですね。言葉(コトノハ)は、聖書においても、日本の神話においても、世界を形作るものですから、この作品はそうした世界観に通じる根幹が一本通っているの…
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