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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第五章
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催事場で逢いましょう

 呪符を強引に剥がした影響か、明日香はまた容態が悪くなった。私は、楓と交代で彼女を看た。これは楓のたっての希望で、危険はあるまいと私が判断した結果である。雨がまださらさら歌っている。秋の長雨であろうか。私は濡れないよう縁側に座り、薄桃色の硝子の盃に入れた純米吟醸をちびちび飲んでいた。魚の焼ける良い匂いがして、振り向くとししゃもを何匹か乗せた皿を持った聖が立っていた。私は身体の位置をずらし、聖の座るスペースを開ける。白銀の糸が天地を結ぶ。私は聖が持参していた盃に、酒を注いだ。しゃらしゃら雨音が鳴っている。

「明日香さんを守らねばなりませんね」

「ええ」

 聖に私は頷く。呪符が破れたことを知ったあちら側は、今度は明日香の口止めに動くだろう。聖の言う通り、擁護してやる必要がある。

 その時、呼び鈴が鳴った。

「調べて来ましたよ、ことさ~ん」

 そう言って大根と蕪が、違う、俊介がやって来た。久し振りの気がする。彼の持って来た大根と蕪をいそいそ冷蔵庫に仕舞う。

「ありがとうございます」

 純正インクカートリッジ、と心の中で付け足す。彼には、小金井明日香の身辺調査を依頼していたのだ。

「父親が病死して以来、母親も病気がちになり、彼女の家は、実質彼女一人で切り盛りしていたようですね。他に親類縁者もなく。かたたとらコーポレーションには、まあスカウトされて入ったというところでしょうか。特殊な異能だったのでしょう?」

「そのようですね。まあ、あちらは特殊な異能だらけのようですが」

「隼太さんがよく尋問に押し掛けませんね」

「来ましたよ」

「えっ」

「聖さんに追い返していただきました」

 そう、明日香の体調の悪さにも関わらず、隼太は早々にうちに来て、彼女を問い質そうとしたのだ。その時は聖が応対に出て、何とか事なきを得た。けれど時間の問題だろう。遅かれ早かれ、隼太はまたうちに来る。彼に明日香の具合の悪さは些末事である。頭の痛い問題だった。


 デパート上階にある催事場は、人で一杯だった。とりわけ着物姿の奥様風の婦人が目立つのは、催し物が日本刺繍展である以上、自然な成り行きだろう。うきうきと中を見て回るかささぎは上機嫌だった。念願だった東雲ゆきの日本刺繡展に来ることが出来たのだ。その精緻な美技の数々に陶然となる。持っていたパンフレットを、うっかり落としてしまうと、拾ってくれる男性がいた。白い三つ揃えのスーツという難しい服装を、従えるように着こなしている。

「ありがとうございます」

 かささぎが心からそう言うと、相手は微笑んだ。

「いいえ」

 鼈甲ぶち眼鏡のレンズが、きらりと光ったような気がした。



評価、ブクマありがとうございます。

今日は涼しいかと思えば午後から天気が崩れ、

蒸し暑くなりました。こちらの日本刺繍展は、

九藤の実体験を基に描かれています。

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