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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第四章
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センチメンタリズム

 私は縁側に座り、半ば放心状態だった。快い風が吹き、私の前、横の自由な髪を揺らしてゆく。……なぜ、堅田社長は私に宝珠を遺してくれようと考えたのだろう。せめてもの罪滅ぼしだろうか。そして、宝珠で自分の寿命を延ばそうとは考えなかったのだろうか。これは私の中に深く根差した疑問だった。宝珠で一度に叶う願いは一回で、堅田社長はそれに自らの夢を賭けた。そういうことだろうか。青い空は碧がうっすら加わり、より一層、天高く見せる。

 もっと早く逢いたかったと言った、堅田社長の声を思い出す。そうすればまた、何かが変わっただろうか。好転しただろうか。亡き人に思いを馳せるときりがない。目を瞑り、時を巻き戻す。私の祖父は、堅田社長のように温和ではなかった。威厳が漂い、対する者の背筋を伸ばさせるものがあった。けれど、音ノ瀬では禁忌である煙草を常用し、肺癌で亡くなった。音ノ瀬の当主であるということは、それ程に重い。

 久し振りに月桃香を焚く。もやと立ち昇る白い煙は、堅田社長の魂を連想させる。手を伸ばして、引き留めそうになる。

 逝かないで、おじいちゃん。逝かないで、堅田社長。

 記憶の中の彼らは、そんな私を深く透徹とした眼差しで見つめている。

「…………」

 無意識に伸ばしていた手を引っ込める。死者に拘泥してどうする。今の私にはもっと考えるべき事柄がある筈だ。堅田社長が私にと遺してくれた宝珠の今後。隼太が思案中と言った宝珠のこと。だと言うのに、私は月桃香の煙を眺めながらまた、堅田社長と祖父のことを考えていた。

 戦後を生き抜いた彼らの苦労は、筆舌に尽くし難いものがあっただろう。重責を負い、昇り詰める様は、一気呵成のものではなく、砂漠で一歩一歩、歩を進めるようなものであったに違いない。

 風が吹く。甘い風が。

 孫の頭を撫でる老人の手のような甘さがある。

 私は、その段になってようやく、自分が泣きたいのだと気付いた。そして、けれど泣くまいと堪えた。私はまだ何事をも成していない。泣いてはいけない。音ノ瀬一族現当主。天響奥の韻流十代目。これらの看板を背負った時から、私は容易に泣いても良い存在ではなくなったのだ。



ブクマありがとうございます。

そして、改めて読んでくださっている皆さまに感謝を。

今日は少し冷えていて、お恥ずかしながら湯たんぽを

入れるなどしておりました。気圧で体調が不安定だったのもあります。

皆さまもどうかご自愛ください。

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