宙に浮く宝珠
私は漆黒の喪服を纏い、同じく喪服の聖を伴ってかたたとらコーポレーションに赴いた。用意の良いことに、車が既に手配されていた。車が社に着く。ドアを開けて外に出ると、秋の強い陽射しが天頂から私の頭を焼いた。数日前に墓石を連想させた会社は、今や文字通り墓石となったようである。
ロビーで待っていた片桐にお悔やみの言葉を告げる。片桐は、悄然とした様子で力なくそれに答えた。骨格の立派な、大の男が、今では脱力したようになり項垂れている。彼の中の、堅田社長という存在の大きさが窺い知れる。
案内された部屋は前回とは違い、堅田社長の書斎だった場所だ。眼鏡を掛けた白髪の、小柄な老人が立っていて、私たちを見ると頭を丁重に下げた。
「弁護士の立川です。音ノ瀬こと様に、亡くなられた堅田社長より、相続を望まれたものがあります」
そう言って、立川は、書斎の本棚の横の紐を下に引いた。書棚がスライドして動き、その向こうに様々な宝珠が燦然として輝きを放っている。
「こちらの品々を、進呈されたいとのことでした」
「莫迦な!」
叫んだのは片桐だ。
「これは社長の夢の形見だ。おいそれと譲られるものではない。立川さん、何かの間違いではないですか」
「いいえ。社長のご遺志です。社長は、これらの物を使い、何事かなされるお積りでした。けれど残り時間が少ないこともご存じだった。もし、間に合わないようであれば、これら全てを音ノ瀬様に譲渡すべしとのお言葉を承っております」
「私は認めない。社長の夢は私が継ぐ。私が実現させてみせる。決して、他者には渡さない」
「……それが社長の望みであってもですか」
「次期社長は私だ。私は、社長職と夢を継いでかたたとらコーポレーションを運営していく。社長の遣り残したことを全うするのが、私の責務だ」
微妙に話の論点がずれていることに、片桐は気づいていないらしい。立川は眼鏡を外して、布で拭いた。その目が潤んでいるのを私は見た。眼鏡のレンズは、立川の涙の湿気で曇ったのだ。……堅田社長と共に歩んで来たのは片桐だけではない。この、老年の弁護士もまた、社長の傍らにあったのだ。片桐には、自分こそが随一という自負があり、それが見えていないようだが。
私は、その場は一旦、去ることにして、聖と共に午後の葬儀に出た。青い空はどこまでも長閑で、僧侶の読経が朗々と響き渡っていた。
評価、ブクマありがとうございます。
死後の揉め事は大変ですよね。




