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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第四章
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あなたたちと一緒に

 隼太は帰り、明日香は客用の部屋で寝ている。実は隼太が帰る前にも、尋問をするしないで揉めたのだが、結局、私が強引に明日香の身柄を引き受けることとなり、病人に鞭打つ真似は許さなかった。もーちゃんがぽよん、と出てきて、明日香の寝る周りをぽよよん、ぽよよん、と回った時には明日香も目を丸くしていた。

「明日香さん。お具合は如何ですか。きつくはありませんか」

「…………」

「まだ結構、熱があるので、夜はお粥にしましょうね。持って来るので待っていてください。それから、明日香さんさえよろしければ清拭させていただきます」

 琥珀色の瞳の上の眉が、情けないように寄る。

「私なんかを大切にしても、良い事は何もないわよ」

「見返りを求めての行動ではありませんので、ご心配なく」

 さらりと私が返すと、明日香はより情けないような、怒るような、複雑な表情になった。

 縁側に出ると大きな太陽が今にも沈まんとしていた。光輝が没するのが世の習いだとしたら、かたたとらコーポレーションのみならず、音ノ瀬もいつか沈む日が来るのかもしれない。だが、それが今であってはいけない。

 楓と一緒に入浴し、聖と夕食を作る。当たり前のようないつもの時間が、何より愛おしかった。明日はかたたとらコーポレーションに行く。どんな歓迎をされるかは解らないが、発声練習などはしておいて然るべきだろう。

 季節外れの、冬瓜のそぼろあんかけを作った。仕上げには細く切った紫蘇と枝豆を散らす。これは聖と楓に共通した好物の一品でもあるのだ。作ったお粥を持って明日香の部屋を開けると、彼女は胎児のように布団の中で丸くなり、眠っていた。

「……」

 まだ年端も行かない子供を騙して戦線に立たせるとは。かたたとらコーポレーションの戦略チームは何を考えている。私はまだ熱い土鍋を明日香の枕元に置き、琥珀色の髪の毛をそっと手櫛で梳いてから、部屋を後にした。

「小金井明日香の具合はどうですか?」

「だいぶ落ち着いてきました」

 聖と楓と夕食を摂りながら、幽かな釣忍の音を聴く。今は何を知らせるでもなく、只、気紛れな風に任せて吹かれたようだ。

「ことさん、私も明日、かたたとらコーポレーションに行きたい」

「それはなりません。どんな不測の事態が起きるか解らないのです。どうか聴き分けてください」

 そう返すと、楓は口惜しそうに、或いは悲しそうに下を向いた。胸が痛む。私はこの子を守る為に、この子の心を蔑ろにしているのかもしれない。

「恭司さんに来てもらいます。留守の家を任せても良いですか」

 差し出すように尋ねると、楓は一瞬、目を瞠り、大きく頷いた。

「うん! 待ってるね」

 嘗て私は逆の立場で両親を見送った。そうして彼らが帰ることはなかったが、私はその二の轍を踏む訳には行かない。

 楓を一人にする訳には行かないのだ。



ブクマありがとうございます。

冬瓜のそぼろあんかけは九藤の好物です。

冬瓜の皮は固いので、剝く時には手を滑らせないよう

注意しなければなりません。季節は大体、夏ごろです。

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