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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
422/817

落ちた花を拾う

 東の空がやや薄暗い。西はまだ明るく晴れている。今の内に洗濯物を取り込んでおくべきか。風が吹き、私に劉鳴殿の単独行動を伝えた。無謀とまでは言えまい。実力がそれを言わせない。衣類を干した物干しスタンドを取り込んでいると、まだ完全に乾いていない衣類特有の匂いと洗剤の匂いがした。

 ぎしりと床を軋ませながら客間にスタンドを移す。後は部屋干しだな。臭いが多少、気になるが仕方あるまい。呼び鈴が鳴る。聖が出て、劉鳴殿を伴い戻って来た。劉鳴殿はいつもの和装とは全く異なる若者ファッションだ。

「師匠。露払いですか?」

「ご明察。風に聴きましたか、ことさん」

「ええ。湿り気を帯びた風が」

「怒らないのですか」

「師匠の独断専行を咎めていたらきりがありません。おおかた、ピアスホールを開けたのも、その変装の為でしょう」

 劉鳴殿がばれたか、と言うように舌を出す。そんな可愛らしい仕草が似合う五十代でどうする。私は劉鳴殿と聖、そして自分の分のお茶を淹れた。

「闇の部隊とやらは如何でした?」

「全容は掴めませんでしたねえ。あちらも相当、警戒しているでしょうし。寺原田君あたりまでが知らずにいたというのは、どこかこう、剣呑な匂いがしますが。僕が今日、相手にしたのは雑魚ばかりでした。ああいった連中だけなら楽ですけどね」

 人生の岐路に立ったなら楽でないほうを選べと常々言っていたのは、今は亡き父である。流水に紅葉が一枚、浮かぶ意匠の上生菓子を緑茶と賞味しながら、ではこの先は私が出るかなどと考える。

「こと様、先走られませんよう」

 すかさず注意をするあたり、聖は私の思考を読めるのではあるまいか。劉鳴殿のピンクのパーカーの袖を握り、つんつん、と引く。

「うん?」

「ありがとうございます」

 途端に劉鳴殿が爆笑した。

「何ですか、ことさん。ツンデレですか。師匠が弟子を気遣うのは当然のことです。礼を言われる筋合いはありませんよ」


 劉鳴殿はだいぶ前に奥方を亡くしている。以来、ふらふらしながら後添いを探しているあたり、大海とは別種の人間のようにも思えるのだ。断言出来るのは、劉鳴殿が確かに妻を愛していたという事実だ。



評価、ブクマありがとうございます。

あんなでも(←)弟子想いの師匠なんです。

今日は夏日でしたね。東京文フリは盛り上がった様子。

お疲れ様です。

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