ピアスホール
劉鳴殿は私の尊敬すべき師匠であり、尚且つその破天荒ぶりはよく知っている積りだったが。
「何してるんですか、貴方は――――!」
「え。ピアスホール開けた」
「ちょっとそこに座んなさい!」
私は夕日を浴びて暖色系のグラデーションに染まる縁側を指さした。劉鳴殿が唇を尖らせて正座する。
「何ですか、ことさん。貴方は僕の母親ですか」
「いっそ言いつけてやりたいですよ、まだお元気でピンピンとしてハワイ旅行にご亭主と行っておられるお母上に、貴方のおちゃっぴい過ぎる行動を!!」
「いやあ」
「褒めてない。しかも幾つ開けてるんですか」
「右に三つ、左に二つです。ピアスホールは奇数が縁起良いらしいので」
眩暈がする。
「聖さん、聖さんからも何とか言ってやってくださいっ」
「……抗生剤を忘れずに、感染症には気をつけて」
「そういうことじゃない! 貴方、時々天然ですよね」
「まあ、劉鳴殿も十二分にいい歳ですし、自己責任ということで良いのではと」
「天響奥の韻流の九代目ともあろう人が……っ」
泣けてくるというものだ。実際に私は目頭を強く押さえた。
「えーと、劉鳴さん、今度、原宿にでも行きます?」
「芳江は黙っとれ」
「せやかて撫子。場を和まさんと」
縁側の人口密度がいつの間にかかなり高くなっている。楓は客間から、はらはらした様子でこちらを窺い見ている。ああ、あの子にこんな教育上悪いものを見せたくなかった。やっていられなくなった私は、聖の右肩に額を乗せた。そうでもしないと仮にも師匠である人に対して、罵詈雑言を浴びせそうだったからである。
「尼寺に行けっ」
「わあ、シェイクスピア。ことさん、それの元ネタ判る人ってあんまりいませんよ? それに僕は一応男なので、尼寺には入れてもらえません」
「黙れ莫迦師匠!」
「ああ、言うてもうた」
撫子が嘆かわしく頭を抱えるが、これくらい言わないと私の気持ちが納まらない。
「こと様、ルビーやガーネットのピアスなら、目の色と合ってそれなりに品良くまとまるかと」
「聖さん、論点がずれてますがわざとですか」
「いえ、すみません……」
その後、私は自分の師匠に対してガミガミと一頻り説教した後、インスタントラーメンを作って食べ、ふて寝した。ラーメンは楓の分も作り、炒めた法蓮草に卵を落としたもの、メンマやにんにく醤油に漬けた茹でたもやしなどを入れておいた。後はもう知らない。
評価とブクマありがとうございます。
「尼寺へ行け」は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ
「ハムレット」に出てくる有名な台詞です。




