熱燗の冷める間に
熱燗を頼むとお通しが出された。酢モツだ。
口に含めばコリコリと歯応え良くモツの汁が滲み出る。劉鳴が隼太を連れて行ったのは小路の脇にひっそり立つ小料理屋だった。客はまばらで、日本民謡が小さく流れている。
劉鳴と隼太は奇妙で、且つ目立つ組み合わせだった。人の目が煩そうな隼太を見て、劉鳴が女将に座敷を使わせてもらえるよう頼む。小さく牧歌的な部屋で、二人は盃を酌み交わした。
「良い店だな」
「そうでしょう。ここは締めの雑炊が絶品なんですよ」
自然、抑えた声音で会話する。
「先程のは、かたたとらコーポレーションの闇組織の一端ですよ」
「庶務課だけではなかったのか」
「そちらは光の分担ですね。あ、すみません、揚げ出し豆腐と、茄子の田楽、えのきのベーコン巻き、え? それは今日はやってない? じゃあオクラ巻きで。それから鯛の活け造り、山芋短冊。とりあえずそんなところで」
注文を終えた劉鳴が盃を干す。
「光だけでは処し切れない問題にあたる闇の集団がいましてね。堅田社長の子飼いですよ。ですが御し切れていないらしい。社長もまさか、自分の姪が襲われるとは夢にも思わなかったでしょう」
「お誂え向きだな。そういう人間を完膚なきまで叩きのめすのが俺の流儀だ」
酢モツを口に運び、また酒を飲んでから、劉鳴が赤い目を隼太に向けた。
「相手の異能も知らぬ内から大言壮語を吹くものではありませんよ。君は花屋敷で一度、失敗している筈だ。何も学ばなかったのかい」
「臨機応変にやるさ」
茄子の田楽と揚げ出し豆腐が運ばれて来た。
「堅田という男。人を信用していないんだな」
「組織のトップなんてそんなものです」
「音ノ瀬ことも?」
「ことさんは、」
揚げ出し豆腐をはふはふ、と食べながら劉鳴が答える。
「あれはちょっと異端ですね。そもそも、上に立つには情が深過ぎる。だが、その情に皆がついて行く」
「温いな」
「燗が冷めて来ましたか」
隼太が評したものを劉鳴は知っていて知らぬ風を装った。隼太はふん、と鼻を鳴らし、盃の酒を一気に呷った。
ブクマありがとうございます。とても嬉しいです。
季節的にはもう初夏なのでしょうが、いまいち
ピンときていません。
九藤の湯たんぽは未だフル稼働中です。
酢モツは良い肴です。




