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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
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苺ジャムを手作りする

 二条は赤いエナメルのパンプスを急ぎ足で動かしていた。空はもう暗く、星が数えられる時間帯である。久し振りに帰宅が遅くなった。デパートでストッキングを買いたかったのだが、もう閉まっている。仕方ないのでコンビニの物で数日はしのごう。紅花をふんだんに使ったリップクリームもそろそろ補充しないといけない。女はかくもやることが多く忙しい。今日は自炊の余裕もなさそうだから、コンビニでパスタサラダでも買おう。サーモンが入ったパスタは、まだ残っているだろうか。髪を靡かせ歩いていると、人通りの少ない路地に出た。早く通り過ぎようと思う。物騒な世の中だ。

 鼻腔を、甘い匂いがくすぐった。人を蕩けさせる甘さだ。けれど二条は眉間を険しくした。ピンクオレンジの唇を引き結ぶ。

 二条の目の前には、ふわふわした白と紅のグラデーションの着物を着た、美女が立っていた。人間ではないと判断する。そしてもう一つ。恐らくは二条の敵。誰だ。音ノ瀬にこんな人間がいるのだろうか。人間、いや、式神だろうか。思考しながら二条はスーツの上着から短剣を取り出し鞘から白刃を抜く。柄には大粒のサファイアが埋め込まれている。かたたとらコーポレーションの所有する至宝の一つだ。二条に一任されている。

「貴方、誰?」

芙蓉(ふよう)……」

 返った名前は如何にもその女性に相応しく思えた。花の持つ、剣呑さにおいても。芙蓉は日本刀を手にしていたのだ。間合いにおいて不利ではあるが、二条の異能を合わせれば対峙することは可能だ。但し、相手が日本刀を振り回すだけの存在なら。

「芙蓉さん。貴方、どこの陣営の人かしら」

 無駄と知りつつ、問いを投げる。果たして芙蓉は、可笑しそうにくすくすと笑った。

「貴方と同じよ?」

「え?」

「かたたとらコーポレーション……」

 言い様、神速の抜刀で芙蓉が二条に迫った。二条は辛くもこれを短剣で受ける。邪魔なパンプスを脱ぎ捨てる。霧が突如、立ち込める。芙蓉の姿が見えなくなるが、殺気だけは感じ取れる。目くらまし。稚拙だが厄介な能力だ。特に摩耶の異能を行使するにおいて。何度か、短剣と刀で斬り結んだ。どすっ、と首筋を打たれて堪らず昏倒する。これは致命的な隙だ。そこにナイフが飛来した。

「二条さん!」

 水谷だ。そう言えば彼の危機感地能力は庶務課内でもずば抜けていた。駆け寄る固い靴音。なぜ、かたたとらコーポレーションに属する女が二条を襲撃したのか。二条は庶務課内でも誰よりかたたとらコーポレーション寄りの人間である。この謎は疎かにせず煮詰めて答えを出さねばならない。そこまで考えたところで、二条の意識は途切れた。



評価ありがとうございます。

苺ジャム、うちでも時々手作りしていました。

市販のものより好きな味でした。

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