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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
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囀る鳥

 かたたとらコーポレーションの沈黙が不気味だ。今日の空の暗雲のように。こうした長期戦はじりじりと精神を焼く。消耗を防ぎつつ備えることが肝心だ。コトノハ薬局の依頼もこなす。湿った空気が今にも雨を呼びそうな日だった。

 黒く太い縁の眼鏡を掛けた二十代から三十代と思しき男性が、今日の客だった。色彩躍る伊万里焼の湯呑みに、緑茶を入れて出す。男性は礼を言い、ぎこちない手つきで湯呑みを持った。覇気が弱い。摩耗している。心身共に。

「この家、良いですね。ほっとする……」

「ありがとうございます。あちこち傷んでいますが」

「リノベーションとか、すると良いですよ」

「成程」

 私がそう答えると、男性ははっとしたように手を震えさせた。湯呑みの中の緑が大きく揺れる。

「すみません、余計なこと言いました。すみません、悪気はなかったんです」

安武(やすたけ)さん。良いのですよ。そういう手もあると教わっただけです」

「ありがとうございます。すみません。あの、上司が。僕が何を言っても責め立てて来る人なので」

 パワハラか。現代社会に蔓延している深刻な病だ。被害者は往々にして相手ではなく自分を責める。最悪の場合は自死に至る。私は目を伏せた。急流の川の、(あし)のように、こうも人は社会に翻弄され生きている。

「今度、安武さんの会社に出向いてもよろしいでしょうか。何か理由をつけてくだされば好都合なのですが」

「は、はい。それは出来ますが」

「コトノハの処方が必要なのは貴方ではない。貴方の上司です。貴方の上司にコトノハを処方させてください」

 安武さんはしばらくぽかんとした顔をしていた。じわじわと、その目に涙が浮かぶ。

「僕、一人で頑張らなくちゃと思って。踏ん張って、でも、もう限界で」

「貴方は善戦されました。ここから先は私の出る幕です。貴方の苦しみを引き受けます。ですから。……ですからどうか、今日はゆっくりお眠りください」

 安武さんは隈の出来た目を腕で擦ると、何度も、何度も頷いた。

 虐げる者と、虐げられる者がいるこの世の不条理を、私は悲しいと思った。



ブクマありがとうございます。

実際にこういうことがある社会は、

病巣が深刻だと思います。

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