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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
407/817

そういう世界になるのなら

 改めて顔合わせを、と望んだのは寺原田だった。これから音ノ瀬の一翼として世話になるのだから筋を通したい、と。何ともまあ礼儀正しいことだ。私は音ノ瀬の当主として客間の上座に着き、右には聖、左には秀一郎が並んだ。

 向かいには寺原田、和久、岡田、三島。漆黒の座卓に真面目な顔触れが映っている。寺原田が、座布団から降りて、頭を下げた。

「課長」

「もう課長じゃないよ、三島ちゃん。音ノ瀬さん。この度は、厚かましい願いを聞き届けてくださり、ありがとうございます。こちらに参りましたからには、危急の折には馳せ参じ、粉骨砕身、面目躍如の働きをしてご覧に入れます。どうぞ、皆をよろしくお願いいたします」

「お手をお上げください。我らの軍門に下ったからには、貴方がたはもう音ノ瀬。守り、助け合うべき音ノ瀬の一員です。過ぎた卑下は無用です」

 顔を上げた寺原田は、至極、真剣な顔つきだ。私の心に優しい風が吹く。最近、会っていないが、俊介と話す時もよくこんな心持ちになったものだ。ここに並ぶ三名の、元・かたたとらコーポレーション庶務課の面々は、上司に恵まれた。

「おうっ!」

 岡田が奇声を発したと思ったら、もーちゃんにタックルされたようだ。そのまま、もーちゃんは岡田にぽよん、ぽよよん、とぶつかっている。気に入ったらしい。

「え、何この。毬藻(まりも)みたいの」

「岡田。毬藻は北海道は阿寒湖の名物だ。確か。ここにいるとしても一つ目はおかしい」

「そういう答えを求めてんじゃないんだよなあ……」

「彼は式神のもーちゃんです」

「あー、そういうのでもなくて。ここ、もしかして常識人の比率が低いの?」

「どえっふっふっふう……」

 低い笑い声と共に、客間の襖を勢いよく開け放ったのは撫子だ。やれやれと言うように芳江がその傍らにいる。

「ここにちゃあんと常識人がいまっせ! ようこそかたたなんたらから音ノ瀬へ、イケメンのあんさんらっ。一人、クマさん枠がおるけどチャーミングやからええわ。おねーさんもまあええわ」

「いや、良くない全然良くない、ことさん、この人を野放しにしないでくださいよ、俺、苦手なんだよ!」

「岡田、好き嫌いは良くない」

「何でそこで和久の物真似するの!」

「岡田、好き嫌いは良くない」

「和久、お前も悪ノリするな!」

 おふざけはこのくらいにして、私は口調を切り替えた。

「岡田さん。お母様との次の面会はお決まりですか?」

「――――どうしてそれを」

「寺原田さんから伺いました。コトノハの処方で、貴方のお母様の心の病をどうにか出来ないものかと」

「……来週の土曜日」

「同行させてください」

「あんたに出来るんですか。もし。もしあんたに、お袋を治せるんなら、俺はその時こそ、あんたの下に跪きますよ」


 私が寺原田から聴いたのは悲しい話だった。涙は拭われれば良いと思った。傷は癒されれば良いと思った。あまねく人がそのように願ったならば、世界はもう少し優しくなるのだろう。



ブクマありがとうございます。

まだ湯たんぽを使っていると言ったら

驚かれるでしょうか。頭寒足熱と申しましょうか、

足をポカポカにすると健やかな眠りが訪れるのです。

まだまだ手放せそうにありません。

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