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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
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鍛えられた鋼のように

 縁側は、もうずっと前から私の定位置だ。この場所で風の歌を聴いてきた。チョコレートアイスを食べながら、(にび)(いろ)の空を見る。巨人が両手で選り分けたように雲が分断され、淡い太陽が見える。もう一本、と伸ばした手が空を切る。あれ。

「……師匠」

「油断ですね。ことさん」

「いやいつの間にいたんですか。不法侵入ですよ」

「つれないですね。僕と貴方の仲でしょう」

「人妻に誤解されそうなことを言わないでください」

「良いですよ、貴方になら誤解されても」

 劉鳴殿は今日も白髪、赤目麗しく紫紺の単衣を着ている。帯は銀筋の入った黒。この、剣術一筋に見える人はこれで洒落者だ。そしてかなりの頻度で人をからかって遊ぶ。戯れの求婚など幾度されたことか。聖が劉鳴殿に対して寛容になれない点である。あむ、とチョコレートアイスにかぶりつく様からはとても剣豪の片鱗は窺えない。

「かたたとら、もぐもぐ」

「師匠、食べ終わってからで良いです」

「もぐもぐもぐ、ごくん。かたたとらコーポレーションから勧誘を受けたよ」

 私の身が強張る。その可能性を失念していた。同時にぞっとする。劉鳴殿に敵方に就かれたら、戦局は大きく不利に傾く恐れがある。

「もう一本良いですか。断りましたけどね」

 紛らわしい言い様だが、断ったというのは勧誘の話だろう。知らず息を吐く。劉鳴殿は世俗の利に興味がない。江戸期の根付けやら刀の鍔やらの収集癖はあるが、それも度を超す程ではない。基本的に無欲で、仙人のような人なのだ。

円山応挙(まるやまおうきょ)の絵は惜しかったんですがね」

 江戸時代の高名な画家である。そんな物まで取引に使ったのか。かたたとらコーポレーションの宝物庫には一体どれだけの珍品が眠っているのだろう。我が音ノ瀬一族もそれなりの値打ち品を所持するが、かたたとらコーポレーションに及ぶかどうか。ああ、そうか。

「師匠。春画って要ります?」

 むぐ、と劉鳴殿がアイスを咽喉に詰まらせる。これは滅多に見られない光景だ。

「興味ありません」

「そう強がらず。殿方ならお好きでしょう?」

「どうして僕が弟子から春画を勧められなければならないのですか。低俗なものから気品高い物まであるとは言え、あれはポルノの一種ですよ」

「よくご存じで」

 劉鳴殿が憂いがちな溜息を吐いた。

「大体、そんな取引をしなくても、僕は音ノ瀬の人間の端くれです。ことさんに就くに決まっています」

「それを聴いて安心しました」

 にっこり笑う私を、少し嫌そうな目で劉鳴殿は見た。

「強くなりましたね。ことさん」



ブクマありがとうございます。

今日は空気がどこかしんなりとして、

物思うに相応しい日でした。そう綴りながら

お腹の鳴る九藤はまだまだ修行が足りません。

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