ぽつぽつと落ちる声
空が荒れそうだと和久は窓の外に目を遣り思った。それは一種の、今、寺原田から打ち明けられた話からの現実逃避だったかもしれない。
「正気とは思えませんね」
真っ先に反発したのは予想通りアーサーだった。一色は眼鏡の縁に触れ、二条は瞬きせず寺原田を見つめている。三島は腕組みして、岡田は煙草を吸っている。課内禁煙だが、今、彼を咎める者はいない。もっと重大な背徳者が存在してしまっているからだ。
「アーサー。君ならそう言うと思ったよ。僕に遠慮は要らない。堅田社長に注進に走るなりすると良い」
黄金の眉が険しく歪む。
「課長。俺は貴方を尊敬していた。多分、今でも。なぜこんな真似を」
「有難い言葉だよ、アーサー。……僕は、只、君たちに屈託なく笑って欲しいんだ。そういう条件下にあって欲しいと願う」
「その結果の裏切り行為ですか!」
「そうだ。それが最善だと判断した。社長が僕や君たちに課す行為は人道に悖る」
「理解出来ない」
吐き捨てるようにアーサーが言っても、寺原田は困ったように微笑するだけだ。申し訳程度に庶務課の隅に置かれた観葉植物もどことなく萎れて見える。
「俺は課長に従います」
和久をぎろりと睨めつけたのはアーサーだ。緑色には険が溢れている。和久は退く積りがなかった。寺原田の、自分たちに抱く言わば親心は本物で、そして音ノ瀬は身を投じるに足る場所と思えたからだ。
「あたしもクマ課長について行くっすよ。家族を養う分の、十分な報酬が約束されるんならですけど」
「それは大丈夫。あの一族の財力を調べてくれたのは、他でもない君だろう」
「私は行けないわ。すみません」
「良いよ、二条君。君は堅田社長の縁戚だ。動くに憚りがあるだろう」
「僕も二条さんに同じくです、課長。貴方の言葉は情に流され、合理的でない」
言葉の厳しさとは裏腹に、一色の目には哀しみがあった。
「俺も社を裏切れません」
「解ったよ、水谷君」
そこで皆が数秒、黙り、誰からともなく岡田を見遣る。視線を集めていることを知っているだろうに、岡田は紫煙をゆっくり、まるで一人戸外にいるかのように吹かしていた。
「俺は」
降り始めた、と和久は思った。
「クマ課長に就く。だって薔薇酒、まだ飲みたいしさ」
かたたとらコーポレーション庶務課の分裂が決定した。
ブクマ、評価、どちらもありがとうございます。
本当にモチベーションが上がります。
寺原田に対して様々な意見、批評が上がりましたが、
課内の人間は皆、彼のことが好きです。だからこそ
居残り組は辛さもひとしおでしょう。




