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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第三章
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花の重さ

 岡田は会社の寮で、ぷかりと一服、白を吐いていた。

 畳がだいぶ黄ばんでいる。この寮も、もう古いからなと思う。かたたとらコーポレーション創立前の建物らしいから、筋金入りだ。青い畳が保たれる贅沢などごく一部の人間の特権だ。かり、と戯れに壁を引っ掻くと、爪の間に何やら判らない白い粉が詰まった。

 岡田の父親はとうに亡くなった。亡くなって良かったと思っている。彼は酷い家庭内暴力を振るっていたからだ。母親は必死になって岡田を庇った。お蔭で美人と評判だった母の顔や、腕、脚、見えないところからは青あざが絶えなかった。岡田は父を激しく憎悪した。

 そんな父親が事故であっさり逝ったのは、何の因果だったのか。岡田は泣いた。天に捧げる感謝の涙を流した。

 そして今度は母親がおかしくなった。もう諸悪の元凶である父親はいないと言うのに、いつもどこか不安そうであたりをキョロキョロと見回していた。岡田に手をあげるようになったのはいつからか。岡田は抵抗しなかった。母の気持ちが理解出来たからだ。彼女は怯えて、辛くて、岡田に当たる他、気持ちの落ち着けようがなかったのだ。やがて母の両親、つまり岡田の祖父母が母親を施設に入れ、岡田を引き取った。当時の岡田は、昔の母親のように、至る所、青あざだらけだった。児童相談所に通報される前にと、祖父母は動いたのだろう。彼らは岡田の父親には手出し出来なかった。離婚を再三、娘に勧めたが、母が決断しても離婚用紙がまっとうな形で保持されることはなく、いつも気づけば父親の手により破られ、ごみ箱に捨てられていた。

 母親は施設に入ってから岡田に手紙を書くようになった。

 そこには謝罪と悔恨の念が綴られていた。判で押したように、その内容は変わらなかった。

 一度、母親が仮退院のような形で家に戻ったことがあった。母親は泣いて岡田に詫び、抱き締め、その夜、首を絞めた。異変に気付いた祖父母がいなければ、今頃、岡田は生きていないだろう。母親は施設に戻った。

 岡田は静かに涙を流した。

 祖父母が怖かったろう、可哀そうにと慰めたが、岡田の涙は母を憐れんでのことだった。

 成長するにつれ、自分の異能を知り、操る術を身に着けた。

 岡田は考えた。

 こんな力でなくて良いから、母親を癒す術はないものだろうかと。ある日かたたとらコーポレーションから迎えが来て、岡田はスカウトされた。丁度、進路に迷っていた時期だった。祖父母と母親が生活していけるだけの稼ぎが必要だ。かたたとらコーポレーションが提示した給与の額は、岡田を決意させるに十分だった。

 部屋の窓を開けて煙草を吸っていた岡田は、じっと風に揺れるコスモスを見ていた。濃いピンクに白。

 父が死んだ日。彼は珍しく機嫌良く、岡田を動物園に連れて行ってやろうと言った。二人は連れ立って歩いていた。季節は今と同じ秋。岡田は車道の向こうの揺れるコスモスを指さした。父親の注意が逸れる。思い切り体当たりすると、父親の身体は呆気なく車道に転がり出た。鳴る急ブレーキ音。

 煙草の火を灰皿で押し消す。

 許される気などさらさらない。きっと自分は地獄に堕ちるだろう。それで良いから神様、と岡田は祈る。

 母親だけは見逃してやってはくれまいか。



ちょっと熱で呆けた頭で書いています。

いつもありがとうございます。

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