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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
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重陽の節句

 長い一日を終え、私たちはようやく帰途に就いた。隼太は念の為、花屋敷に泊まると言う。彼の実力を知る者としては心強い申し出だ。聖が少しの思案の末、自分も泊まることを提言した時、隼太は笑って御当主様の傍にいろと言った。私情では私もそうして欲しかった。

 そして私は聖たちと我が家に帰った。浴槽にはもう湯が張ってあった。私は玲一たちの心遣いと今夜の守りの任を務めてくれたことに感謝し、彼らを見送った。もう夜も遅いので宿泊も勧めてみたが、彼らは車で帰るからと固辞した。

 私は、薬缶(やかん)を火にかけた。そうして沸いたお湯で丁寧に緑茶を淹れ、皆に配った。

 すると、撫子がひょいひょいとまるで手品のように、懐石料理の品々を座卓に並べている。空間転移の為せる業だ。その内容から、私たちが途中まで食べた懐石料理の続きだと判る。

 かますの若狭焼、新蓮根の蒸し物、黒毛和牛陶板焼き、無花果(いちじく)、マスカット、梨の白和え。穴子のうす造りに、なめこ、わかめ、(ねぎ)の味噌汁、そして岩国寿司、水菓子は南瓜(かぼちゃ)のプリンだ。

 確か今日の献立は重陽の節句にちなんだものだと聴いた。九月九日は重陽の節句と呼ばれ、古く宮中では菊の花びらを浮かべた酒を飲んだと言う。先付に「もってのほか」の花弁が散らされていたのもそれが理由だ。

「折角やから、お風呂の前に食べましょ」

 撫子がにかっと笑う。芳江はやれやれと言った表情だ。撫子の頬に傷がある。私は少し考え、芳江にそれを治すよう頼んだ。快諾した芳江は撫子の頬に手を当て、「()」とコトノハを処方する。

 何だろう。二人の間に流れる空気が、いつもと同じようでいて、少し異なるような。聖が訳知り顔なので、何があったのか、後で聞き出そう。私は自分の分の料理を楓に半分ずつ分けてやりながらそんなことを考えた。楓には玲一らと共に夕食を用意してあったが、この美味は是非、味わっておくべきと考えたからである。

 果たして楓は可愛い顔を更に可愛くさせて美食に舌鼓を打っていた。料理人の心の籠った品々が、荒んだ心を癒していく。美味しい料理には人を正気付かせる力があると聴く。実にその通りだ。食べた後は風呂に入って、そうして、今日は心細い思いをしたであろう楓を抱き締めて眠りに就こう。



ブクマありがとうございます。

姪っ子が遊びに来て我が家は遊園地と化しています。

彼女は九藤の部屋に興味津々の様子ですが、立ち入り禁止区域と

言っております。だって触られるとやばいものがそこにかしこに。

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