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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
392/817

どこまでも変わらない色柄で

 私は不意に悲しくなった。水谷の行動は無意味だ。

 なぜなら私はコトノハ一つで彼を戦線離脱させることが出来るから。瞬時の迷いの内にも水谷のナイフが飛来して私の頬を掠める。私は乾いた唇を湿してコトノハを処方した。

(ばく)

 強めの処方を服用させられた水谷の動きは止まる。

 額に脂汗。動こうと苦心している様が窺えるが、動けまい。

(とう)

 仕上げとばかりに処方したコトノハで、水谷は地に伏せた。唇を噛んでいる。余程、口惜しいのだろう。清かに凪いだ夜に人の世は何と矮小で忙しないことか。月や星に笑われている気がする。

「すみません、急ぐので」

 そのまま通り過ぎようとした私の足首を、不意に水谷が掴んだ。ぎょっとする。

「行かせ……ません」

 水谷の握力は万力のようだ。コトノハに逆らう副作用の為に身体を激痛が苛んでいる筈。なのにこの執着と来たらどうだ。私はしゃがみ込んだ。水谷の頭をそうっと撫でる。水谷が目を剥く。ふと生じた考えは、我ながら突飛なものだった。

「水谷さん。私は今から貴方の処方を解いて聖さんたちの後を追います。ついて来られるようならおいでなさい」

 私はコトノハの処方を解除した。そして水谷に背を向けて走り出した。

 追って来る気配はない。

 良かった。死なせることもなく一人、孤立させられた。ナイフの投擲は脅威だが、私の処方するコトノハの前では無力で無意味だ。すると、隼太と行き合った。彼が目を瞠るのは珍しい。コートの紫陽花色が、心なし、いつもより濃く鮮やかに見える。彼からはいつもの刺々しさが感じられなかった。代わりに寂寞のようなものが感じられた。

「なぜここに?」

「狙われるならここだと思った」

 端的に答える。それで全てが通じるだろうと言わんばかりの。そして私は事情を呑み込んだ。隼太から、彼以外の術の名残が陽炎のように揺らめいている。

「聖さんたちに早く追い付かなくては」

「通さない、と言ったら?」

 隼太の目は常と変わらず漆黒で、深い物思いに囚われているようだった。



評価ありがとうございます。

冷え冷えした一日でした。

雨降りのところも多かったのではないかと。

不思議ですね。遠くの雨音が、まるで列車の走る音のように

聴こえるのです。

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