表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
389/817

花嫁御寮に硝煙の匂い

「リベレーターはざっくり言うと3Ⅾプリンターを用いて作られた銃だ。日本でも3Ⅾプリンターを使い作成した拳銃を不法所持したとして、工科大の職員が逮捕されているよ。尤も、彼に罪を犯しているという意識はなかったようだけれどね。この銃は俺が使いやすいよう、リベレーターの短所を排除して作成したものだ」

「……御託はええねん」

 芳江が低い唸り声を上げる。撫子の頬には一筋の赤い線が刻まれ、そこから、つう、と雫が垂れた。

 いつも優し気な美貌の芳江が、激昂した。

「人の嫁になる女の顔に、何さらしてくれとんじゃわれええええええ!」

 撫子が自分の頬の傷を手首で拭う。丸くなるアーサーの緑の目。

「ほう。君たちはそんな仲だったか。これは無粋なことをしたかな」

 芳江は空間を繋げて杖を取り出した。ぐるんぐるんと目の前で旋回させ、構える。

「杖使いか」

「せや。今からあんたをぶちのめす。聖様。手え出さんといてください」

「承知」

 リベレーターは至近距離からの一発が強い。代わりに連射出来ないなどのデメリットもあるが、アーサーがそれらを使いやすいよう改造したのだとしたら、杖でどれだけ対処出来るものか懸念はあった。だが、聖はアーサーの相手を芳江に任せた。男の矜持というものはいつの世でも存在し、そしてそれは叶うことなら同じ男であれば重んじて然るべきものだからである。

 撫子に接近し、彼女の無事を確認する。撫子は芳江の言葉をどう取ったものか、いつもと変りない表情だ。

(ばく)

 しかし聖が一色にコトノハを処方する一瞬前、発砲音が響いた。一色が左手に鏡を、右手に銃を構えている。

「リベレーターが一丁だと言いましたか?」

「言ってないね、確かに」

 隼太があの鏡の中にいる。迂闊に戦闘状態に入るのも躊躇われた。

(ぼう)

 一色の眉が僅かに歪む。リベレーターは脅威だが、間隙を縫い、聖は隼太の二の轍を踏まないよう先手を取り攻撃を封じた。恐らく、隼太は何等かのコトノハ、彼らからすれば言霊により、鏡に吸収されたと考えられるからである。

 今、撫子と聖まで隼太の後を追えば芳江が孤立する。それだけは避けるべき事態だった。


 幼少期の記憶を鑑賞させられながら、隼太が感じたことは、ふうん、といった程度のものだった。確かに子供が味わうにしては中々、スリリングな経験だ。しかし。

 だから何だ。

 自分はもう、とうに越えた山だ。あの眼鏡の男が、これで自分を精神的に追い詰めようと考えたのだとしたら、目論見として甘過ぎる。

 目の前の小さな隼太は泣いていた。

 一人で、磨理が生前に使っていた部屋で、母親の温もりに縋るようにベッドに俯せになり、しゃくり上げている。世にはもっと地獄がある。そんなことを考える自分は、冷たいのだろうが、他者からの評価など犬の餌に劣る。

 泣く隼太と、二の足で立ちそれを眺める隼太にはもう遠い隔たりが生じている。それでも隼太は、小さな男の子に、近寄れるギリギリの範囲まで近寄った。


「大丈夫だ。よくやったよ、お前は」


 きっと届かないだろうコトノハを紡ぐ。

「もうすぐお前の父親も、お前の元に来る。じいさんから、お前を守ろうとする。だから、お前が泣く必要も、もうなくなる」

 ふと、伏せていた顔を小さな隼太が上げた。錯覚かもしれない。だが一瞬だけ、目が合った。そんな風に隼太には思えた。



ブクマありがとうございます。

風の強い雨降りの日でした。

よろしければコトノハ薬局を、

雨露をしのぐ場所として使ってくださいませ。

熱が高くなってきまして、明日の開店は

厳しいかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ