グッバイ、マイフレンド
和久は右手に何かを集めるよう、拳を固めた。
「光の航路」
まばゆい光の幅のある帯が私を搦め取ろうとする。
「解」
光が霧散する。和久は表情を変えない。
「光の航路。変容の舵」
私の本能が咄嗟にこれはコトノハではいけないと告げた。刀で両断しようとすると、その刀身に光の帯は巻き付いた。私は刀を手放した。刀身を引くことに力の籠っていた光の帯は急に引く力が消えた反動で大きく和久の側へと返る。
「光の航路。変容の舵。檻」
光が網状になり、私の周囲を取り囲む。
これはコトノハでこそ有効だ。
「散」
光が潰える。光は和久の一部であるとこれで確信する。コトノハは、完全な無機物には効き目のないようになっている。
受けてばかりは性に合わない。私はとっておきの声音で、コトノハを処方した。
「縛。汝ら動くこと能わず」
岡田はもとより、和久の動きも制止する。指一本、動かせまい。和久の顔に初めて焦りが浮かんだ。
「私には解らない。貴方たちは悪人には見えません。なぜ、上の指示に唯々諾々と従い、このような暴挙に出るのですか?」
「宮仕えだからね」
岡田の声のトーンは軽く、真意が読めない。
「そうですか。和久さん。まだやりますか? 貴方はまだ全力を尽くしていない様子」
「……クマ課長を困らせたくない。あの人は俺の父親みたいなものなんだ。きっと、現状そのものを、課長は憂いているだろうけれど。今は堅田社長の思惑に添うしかない」
「残念です」
私は彼らを傷つけたくなかった。骨を砕いた岡田には、治癒のコトノハを処方したいとさえ思うくらいだ。戦闘不能な状態で、ここに留め置くのが最善。和久はまだ、持てる力の全てを出していない。
「蔦よ。彼らを縛り上げよ。きつく、きつく」
命あるものにはコトノハの処方が容易に効く。私の背後から伸びて来た蔦が岡田と和久を拘束した。この緑の呪縛からは逃れられまい。
しかし、ここで計算が狂った。
和久を縛る蔦がくたりと地面に落下したのだ。
「俺は触れたものの重さを無に出来る。進ませてもらいます」
「待ちなさい」
先行した二人とここで合流されれば、聖たちの負担が重くなる。
「待ちなさい」
私はコトノハを処方した。和久の脚が止まる。私は無意識に吐息を漏らした。素早く脳内で計算する。この場合の最適解は。
「……うたかたはかつ消えかつ結びて久しくとどまりたる例なし」
この処方対象は、先程とは異なり私ではない。和久たちだ。抑えきれないのであれば、手出し出来ない距離を置けば良い。
和久と岡田の身体が持ち上がり、空を飛んだ。行先は岩国。堅田社長のもとへ送り返す。移行して懲りずに再来するようであれば、今度こそ、完膚なきまでに叩きのめす積りだった。私の脳裏にはまだパウロの惨状がくっきり焼き付いている。
ブクマありがとうございます。
近所の歯科医の敷地に白い薔薇が咲いています。
ふんわりとして甘いクリームのようです。
植物は季節を如実に教えてくれますね。




