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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
386/817

本当のエース

 それは氷で出来た一本の大樹だった。岡田が持っていた刀の刀身から生えるようにして、天に向けて屹立している。岡田は既に刀を手放している。賢明な判断だ。意固地になり持ち続けてもいずれ重みに耐えかねただろうし、その前に凍傷により、手が使い物にならなくなっただろう。私は冷静にそう分析していた。

「……とんでもねえな。天響奥の韻流」

「天響奥の韻流は剣術であり、剣術でなし。このようにしてコトノハと混在させることによる技もあるのです。まだ続けますか?」

 岡田は新たに日本刀を顕現させた。それが答えだった。

 私は眉宇をひそめ小さく吐き捨てる。

「愚か」

 岡田は答えず、私に殺到した。刃が煌めく。これは殺傷能力が見たままの、正真正銘の真剣だ。いずれ名のある刀であろう。よく手入れがされている。これなら触れるだけで切れそうだ。私は岡田の刀を正面から受けると見せて、寸分、ずらして避けた。男女の力の差がある。その差の前に、流派の名を唱えたところで無意味だ。

 きりゅり、と奇妙な音が発せられると同時に、私の刀が岡田の左肩を鋭く突いた。岡田は瞠目した。

「何で」

「貴方が間合いを測り損ねた訳ではありませんよ。空間をほんの少し縮めただけです。私は貴方たちのように空間転移の技を多用出来ませんが、刃においてのみ使用可能です。左肩の骨が砕けているでしょう。まだ続けますか?」

 岡田が敵わないと言うように苦笑して、刀を放り投げた。それが答えだった。

「クマ課長には言ったんだ。今回の仕事は気が乗らねえって。やっぱり、そんな仕事が上手く行く訳ないよな」

 つくづくと、氷で創られた大樹を見上げる。不純物のない透明なそれは美しく、人の胸の凝りをも消し去るようだ。

「バトンタッチだな、和久」

 その言葉に、今度は私が目を大きくした。いつからいたのか、気配に気づかなかった。しかし和久は、知る場所でないと移行出来ないと言っていた筈だが。

「俺が〝取り寄せた〟。かたたとらコーポレーション庶務課の、本当のエースは俺じゃない。和久だよ。音ノ瀬ことさん」

 エースと呼ばれ、和久は喜ぶでもなく、逆に憂鬱そうな溜息を吐いた。



ブクマ、評価、ありがとうございます。

良い季節になりました。

楠は今頃が新芽でしょう。色が若々しいです。

遠い国にも皆さんにも、優しいコトノハが吹きますように。

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