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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
385/817

オルゴールが止まらない

 抜かったなと。

 鏡に吸い込まれた隼太の感想はその程度のものだった。ぐるりと周囲を見渡す。

 薄暗さは穏やかで、陰気さはさして感じられない。ぼうと明るい場所を覗けば、そこには祖父である音ノ瀬隼人と、幼い自分がいた。祖父が、お気に入りの揺り椅子をゆっくり動かしながら、隼太に語る内容は凄惨な戦場の物語だろう。

 記憶に即している。

 つまり、あの眼鏡の男の用いた術は、大海の使うものと同種だ。即ち心の闇を投影する心理攻撃。そして隼太はこの鏡内の空間にいる以上、外に干渉出来ない。術を破る必要が早急にあった。

 隼人の声が、聴こえてくる。

「強者は弱者をなぶる。傷つける。痛めつける。兵士である男の対象が女であれば犯して殺す。そんな光景は戦場では茶飯事だった」

 まあ最悪なじじいだと隼太は改めて呆れた。

 年端も行かない孫に語り聞かせる話ではない。幼い隼太の顔は歪んでいる。目に溜まった涙。母親である磨理を喪ってそう経っていない時期だ。大海は、息子を気遣う余裕もなく、独り絶望の沼にいた。その間隙を突いて隼人は孫息子を地獄に手招いた。

 とくとくと語り続ける今は亡き祖父の姿を、隼太は無表情で俯瞰していた。

 この場に手出しすることは無理なのだろう。

 すれば殺してやれたのに。大海が後に咎を負う必要もなかった。残念なことだ。

「もう止めてよ、おじいさん!」

「そらそれ。そんな子供の懇願も、冷酷な兵士には届かない。踏みにじられ蹂躙される。中には自分の殺した児童の身体を弄ぶ奴もいたかもしれんな」

「助けて。助けて、お父さんっ」

「大海は来ぬよ。あの嫁が死んで抜け殻になっとるからな。人の好い娘だった。なぜだかあれが生きている内には、儂もこんなことをしようとは思わなんだ。あれはな、光を注がれた娘だったのだろう。溢れんばかりの愛情と言う名の光をな。隼太。お前は得難い母親を亡くしたのだ」

 隼太の脳裏に、母の笑顔が浮かぶ。

 惜しみない愛情で隼太を包んだ女性の輪郭が、くっきりと脳裏に描かれた。



初夏の陽気でした。

戦い止まぬ人の世の小ささをわらうように、

季節は折り目正しく巡りますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに隼太にとっての分水嶺……。
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