オルゴールが止まらない
抜かったなと。
鏡に吸い込まれた隼太の感想はその程度のものだった。ぐるりと周囲を見渡す。
薄暗さは穏やかで、陰気さはさして感じられない。ぼうと明るい場所を覗けば、そこには祖父である音ノ瀬隼人と、幼い自分がいた。祖父が、お気に入りの揺り椅子をゆっくり動かしながら、隼太に語る内容は凄惨な戦場の物語だろう。
記憶に即している。
つまり、あの眼鏡の男の用いた術は、大海の使うものと同種だ。即ち心の闇を投影する心理攻撃。そして隼太はこの鏡内の空間にいる以上、外に干渉出来ない。術を破る必要が早急にあった。
隼人の声が、聴こえてくる。
「強者は弱者をなぶる。傷つける。痛めつける。兵士である男の対象が女であれば犯して殺す。そんな光景は戦場では茶飯事だった」
まあ最悪なじじいだと隼太は改めて呆れた。
年端も行かない孫に語り聞かせる話ではない。幼い隼太の顔は歪んでいる。目に溜まった涙。母親である磨理を喪ってそう経っていない時期だ。大海は、息子を気遣う余裕もなく、独り絶望の沼にいた。その間隙を突いて隼人は孫息子を地獄に手招いた。
とくとくと語り続ける今は亡き祖父の姿を、隼太は無表情で俯瞰していた。
この場に手出しすることは無理なのだろう。
すれば殺してやれたのに。大海が後に咎を負う必要もなかった。残念なことだ。
「もう止めてよ、おじいさん!」
「そらそれ。そんな子供の懇願も、冷酷な兵士には届かない。踏みにじられ蹂躙される。中には自分の殺した児童の身体を弄ぶ奴もいたかもしれんな」
「助けて。助けて、お父さんっ」
「大海は来ぬよ。あの嫁が死んで抜け殻になっとるからな。人の好い娘だった。なぜだかあれが生きている内には、儂もこんなことをしようとは思わなんだ。あれはな、光を注がれた娘だったのだろう。溢れんばかりの愛情と言う名の光をな。隼太。お前は得難い母親を亡くしたのだ」
隼太の脳裏に、母の笑顔が浮かぶ。
惜しみない愛情で隼太を包んだ女性の輪郭が、くっきりと脳裏に描かれた。
初夏の陽気でした。
戦い止まぬ人の世の小ささをわらうように、
季節は折り目正しく巡りますね。




