帰りは怖い
動かない和久を見て、私はスマートフォンを取り出した。パウロ始め隠れ山に住むコトノハ使いの人々のリーダー格に各自通達する。最後に私は隼太に連絡した。
「隼太さんですか。至急、隠れ山に向かってください。はい。はい、そうです。拉致される可能性があります」
「次は焼物です。かますの若狭焼ですよ」
緊迫した声の私とは裏腹ののんびりと声をかける堅田社長に鋭い一瞥を送る。
「一企業のトップともあろう人が、卑怯な真似をしますね」
「それは貴方、思い違いをしてらっしゃる。一企業のトップだからこそ、進んで汚水を飲みに行くのですよ。そう、嫌がる寺原田課長を説き伏せたのはこの私だ」
寺原田を見ると確かにその面には苦渋が滲んでいる。元来、人が良いのだろう。
「もう一度言います。和久さん。私たちを帰しなさい。それか隠れ山まで飛ばしなさい」
「俺は自分の行ったことがある場所までしか移行させられません」
「では帰しなさい!」
私の苛立つ声に、教師に叱責された生徒のように和久が俯いた。
「和久君。良いから、音ノ瀬さんの言う通りに」
「課長。ですが」
「良いから。社長。よろしいですよね」
堅田社長は思案の顔つきを見せた後、ゆっくり頷いた。
「折角の懐石料理の続きが惜しいが、ここでお開きとしましょうか。和久君。音ノ瀬さんたちを送って差し上げなさい」
「はい」
和久が手をひらりと振った。
次の瞬間、私たちは懐かしの我が家の前にいた。和久が一人、夜空の下、立っている。
「謝りませんよ。これも計略の内だ」
「結構です」
私たちはもう和久を相手にせず、急ぎ家の中に入った。
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今日は寒いかと思えば、外は春の陽気でした。




