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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
花屋敷編 第二章
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花と鬼

 道すがら、遅咲きの桔梗を目にした秀一郎は足を止めた。

 民家の石塀の外、ささやかに張り出して作られた花壇に楚々と咲いている。

 冷えた空気に耐える健気に、秀一郎は鼈甲ぶち眼鏡の奥の目を細めた。

 最近ではどこの花屋でも華やかなトルコ桔梗が威勢を誇り、ことの好む桔梗の花を手に入れることは出来ない。

 また、買い求めるまでもなく、彼女の庭には桔梗が咲いていることを秀一郎は知っていた。だが季節の循環に素直な桔梗であれば、花は終わっているだろう。


「もう寒いだろう。……その根に()を、花びらと葉と茎に暖を」


 コトノハを静かに処方して、再び道を歩き始めた。

 秀一郎はことの家に桔梗の花束を携えはしない。




「良い秋空だ」


 白い前髪を風に靡かせ、聖が快さげに天を仰ぐ。

 高き蒼天に、赤い目を和ませる。

 そんな少年に対して男は、不審と恐怖を覚えていた。

「分家筋のはぐれ者が僕を襲うとは、滑稽もいいところだね。全く。御当主にお使いを頼まれていると言うのに」

 近くに孟宗竹でも植わっているのだろう、竹の葉擦れが聴こえる真昼の住宅街。

 異相の少年とそれに対峙する男の構図は浮いていた。

「ねえ、君。音ノ瀬聡子嬢と音ノ瀬潤君は元気かい?」

「お前。お前、何なんだ」

 引き攣った顔の男に聖は律儀に答える。唇に小さな笑みを乗せて。

「鬼兎」

「――――副つ家の――――、」

「御名答」

 乾いた声を出して、恬淡とした赤い双眸で男を見据える。

「次は君が答える番だよ?」

 それは、こととはまた別種の頂点に立つ者の声だった。

 抗うことを許さないコトノハ。

 しかし男は情報を漏洩したと知った隼太による粛清を恐れ、決死の抵抗を試みた。震える声で。


(しょう)(れつ)、…(さつ)っ!」





 竹の葉擦れ。

 長閑な鳥の囀り。

 愚かな男の囀りに、聖はただ微笑んで。小首を軽く傾げて見せる。


「それで?」


 男がありったけの力で処方したコトノハは、聖に何ら害をもたらさなかった。

 愕然として男が呻く。


「……化け物……」

「鬼兎と教えただろう」


 あとずさる男に聖は緩慢な歩みで迫る。


(せつ)


 低いコトノハの飛来が、一閃して聖の頬を散らした。

 振り向けば佇む、紫陽花色のコート。

 顔立ちを見れば音ノ瀬の血筋だと、聖にはすぐ知れる。

 暗色の瞳。聴いた憶えのある声は。

「音ノ瀬隼太か?」

 頬の傷から流れ出る血を拭いながら尋ねる。


「鬼兎」


 蔑むようにそう言っただけで、隼太は是非を答えなかった。



挿絵(By みてみん)





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― 新着の感想 ―
[一言] 聖と隼太の対立シーン。 意外にも綺麗だと思ってしまいました。見えてくる色でしょうか? でもそれだけではない静かな対立と燃えるような闘争が見えてきます。 聖さんの力もまた底が知れないですね。…
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