表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
379/817

もってのほか

 先付には菊の花弁が美しくあしらわれていた。

「菊は皇室のご紋でしょう。畏れ多いことから〝もってのほか〟と名付けられた品種でね。まあ、始めてください。お酒は召し上がるかな? ()(きょう)(だっ)(さい)などがお勧めだが」

 にこにこと堅田社長が語る。

「では五橋を」

 注文を取りに来た女性に私が頼むと、堅田社長が目を丸くし、次いで大きく笑んだ。

「流石、音ノ瀬の御当主。大した胆力だ。では私もご相伴にあずかろう」

 些少の酒が入ろうと、頭は動く。会食において妨げにはならない。寧ろ舐められない為に飲酒は必要なくらいである。結局、皆が酒を飲むことになった。こちらの顔触れは皆、酒に強いし、あちらも同様なのだろう。先付に箸をつけながら、五橋を飲むと、その旨味に舌が喜ぶ。

「早速本題だが、音ノ瀬さん」

「はい」

「うちの傘下に入る気はありませんか。傘下という言葉が嫌なら提携でも良い」

「……」

 そう来たか。

 私たちを丸ごと、かたたとらコーポレーションが吸収すれば、コトノハの力も宝珠も労せずして得ることが出来る。だがそれでは。

「ありません。私たちに得るものがないので」

「相応の資金援助をお約束しましょう。悪い話ではない筈だ」

「悪くはありませんが良くもない。私たちは別段、現状で不自由しておりませんので」

「それは困りましたね」

 堅田社長が少しも困ってなどいない口調で言う。――――何だ、これは。

 この違和感は。好々(こうこうや)(ぜん)とした堅田社長の真意が読めない。只、嫌な予感だけが募る。酒の後に運ばれてきたのは、今が旬の松茸の吸い物だった。

「音ノ瀬さんは情報を得るにおいて長けておられるようですが、うちも多少の自負がありましてな」

 堅田社長が品良く椀に口をつけて語る。

「ふるさと」

 その一言は、私たちの心に落ち、波紋を広げる一滴だった。

「良いところだそうですな。現世であり、現世でなし」

「よくご存じですね」

「いやいや。私が注目しているのは寧ろ隠れ山のほうで」

 お造りが運ばれてくる。瀬戸内海で獲れた新鮮な魚という説明が、頭に入らない。

「コトノハの能力を持った人々が多く住まうとか。中には数人、事故で行方不明になる人もいるやもしれませんね」

 私は音を立てて立ち上がった。

 それが狙いか。この老人。温和な空気を纏い何と剣呑な手段を採る。

「どうされました?」

「帰ります。和久さんとやら。私たちを元の場所に帰しなさい」

 和久が静かな目で私を見た。



取材協力:山口県岩国市『半月庵』さん。



ブクマありがとうございます。


呆れられるかもしれませんが、

まだ湯たんぽのお世話になっている九藤です。

頭寒足熱と申します。

皆さまも足を温めてお過ごしください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 堅田の爺さん。好々爺と思いきや文ストの森さん並みに容赦ない……! まあ、それは寺原田の口から聞いた上の姿勢で何となくわかってたが……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ