鼈甲飴の電灯の下
秋物のジャケットや、それに合うスラックスなどを見て回る内に思ったより遅くなった。遅くなった原因はそれだけではなく、私があれやこれやと楓の衣服をも買い込んだ為である。甘過ぎず、それでいて可憐な少女服の多い輸入品の店は落ち着く芳香が流れ、クラシックが控えめにかかっている。私は聖の意見も参考に、ここで楓の服を見繕った。これでは誰の服を買いに来たのか解らない。
けれど聖は文句一つ言わず、寧ろ楽しそうに私に付き合ってくれた。かくして私は紙袋を幾つも携えた聖と家路についたのだった。
秋の虫が鳴いている。家に近づく程、空気の清涼を感じる。風はもうだいぶん涼しい。
聖の持つ七つの紙袋の内、五つが楓の衣服を占める。流石に少し買い過ぎたかと思うが、聖がにこやかなので、それに許された気分で歩を進める。あたりはもう暗いが、楓の夕食などは撫子たちが良いように計らってくれているだろう。
黒い夜空に寂しそうな月がぽつり。
坂道の途中の電灯は、橙に朱と赤を溶かし込んだ鼈甲飴のような趣で、人を異界に招く存在感がある。
足を止め、見上げていた私の手に聖が遠慮がちに触れる。顔を向けると顎に人差し指を掛けられ、そのまま口づけされた。
「一瞬の隙をついた犯罪でしたね」
「はい。盗みました」
少し照れ交じりの聖の微笑を横から見る。そして、今日何度も試みていた、紙袋を私も持とうという挑戦は、今度も果たせずに終わった。
うちに帰ると楓が駆けて来て、お帰りなさいと言う。笑っている。良かった。
笑っている。
この子が笑うと世界が輝きに満ちる。
電灯の下での口づけの後、私は聖に頼んだ。
私に万一のことがあれば楓をよろしく頼むと。
聖は、真紅の深い瞳で、私の頼みを請け負った。
命を賭して必ず、と、そう請け負った。
写真提供:空乃千尋さん
ブクマありがとうございます。
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今日は雨降りで、車の走行音も
湿り、滲んでいるように思えます。




