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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
373/817

猿の話

「アーサーぁ~~。君、上に余計なテコ入れしてくれたね?」

 寺原田の嘆き節が響いた時、その場にはかたたとらコーポレーション庶務課の課員、全員が在席していた。まだ明るい昼下がり、クマさんと形容される風貌の持ち主である課長の寺原田は弱り果てた顔で、無意味に両手をわきわきと動かしていた。

「スミス君?」

 庶務課の中で唯一、アーサーをファーストネームで呼ばない一色(いっしき)典弘(のりひろ)は、眼鏡を掛けた理知的な顔を、問うように同僚に向けた。

 これに対してアーサーは、アポロン神もかくやと言う笑顔を返した。

「少し〝提案〟をしただけですよ。流石に強硬策は採用されませんでしたが、別の案は採用されました」

「何の悪巧みだよアーサー。クマ課長をあんまり困らせんじゃねえぞ?」

「心外だなあ、花ちゃん。採用されたのは、ごく平和的な案だよ」

「どういうこと?」

 柳眉をひそめた二条が問う。

「つまりですね、音ノ瀬家と会食の場を設け、宝珠の取り分について穏やかに話し合おうという」

「胡散臭え」

 岡田が遠慮なく評する。緑の目が岡田に向かう。この二人は相性が悪い。

「猿のようにせこせこ動くばかりが全てじゃないさ。もっと合理的な方法を考えないと」

「誰が猿だ、誰が」

「その通りだ、アーサー。猿はあれでとても賢い。昔、とある文豪がまだ小学生だった頃、道で飼われていた猿にらっきょうを与えたところ……」

「和久、その話、長くなりそうなんでカットで。あと何気に人を猿以下呼ばわりするんじゃない」

「岡田……。猿は偉大だ。その昔、ある島で猿は海水で芋を洗うと、塩気でより美味しくなることを知った。それ以来、その島の猿たちは」

「解った。よおく、解った。お前、人をおちょくって遊んでるだろ」

 和久の瞳が大きくなる。

「よく気づいたな、岡田。安心しろ。お前は猿よりはちょっと上だと俺は思う」

「ありがとよ……」

 この時点で既に二条や水谷はデスクトップを見て、アーサーと一色、花は最近の流行りの服について話題を弾ませていた。寺原田はこめかみをポリポリと掻く。

「じゃあ、会食当日は、それぞれの礼装でね。くれぐれも先方に失礼のないように。ちなみに懐石料理になりそうだからその積りで」

「え? 全員、出るんすか? 上も来るんでしょ?」

「ああ、うん。課員は何名かこちらで絞らせてもらうよ。誰に来てもらうかは近日中に知らせるから」

 一張羅のスーツを、サイズアップしてもらう必要性があるかもしれないと、寺原田は一層、太くなった自分の胴回りを見て考えた。



文豪の話は和久の作り話です。

熱は何とか薬で抑えました。

頭痛がまだありますが、通常営業は維持できるかと。

皆さまは健やかでおられますように。

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