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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
371/817

焼けた鉄も茨の棘も

 買い物から帰ったことの顔は蒼白で、若干ふらつく足取りで自室に向かった。その理由を問い質す撫子と芳江に、聖は仔細を語って聴かせた。

「しょうもないこと言いますねえ。音ノ瀬隼太」

 撫子はあっさりとそう断じた。座卓の上に組んだ太い腕を乗せ掛け、パチパチ瞬きしている。芳江が同意するように頷く。

「一人の人間の中には色んな側面がある。聖様を亡くしたこと様の悲しみと衝撃を、誰が責められる言うんです? それは決して、楓ちゃんを疎かにした、いうことと同義やない」

「俺も撫子の言う通りや思います。こと様が、どんだけ楓ちゃんを可愛いおもてるか、傍で見ててもよう解りますわ。聖様の生を願ったことと楓ちゃんへの愛情を秤にかけるんは無理があります」

「……問題は、一番、こと様を責めているのは音ノ瀬隼太ではないということなんだ」

「と、言うと?」

 尋ねる撫子に、聖は深い憂いを湛えた眼差しを向けた。

「こと様ご自身が、最もご自身を責めておられる。自責の念に、苦しんで。それでもこと様は前に進もうとするだろう。焼けた鉄の道の上を行くように茨の棘を掻い潜るようにどれだけ傷つかれても歩みを止めないだろう。他ならぬ楓ちゃんや、僕たちの為に。だから、音ノ瀬隼太の糾弾は、筋違いも甚だしいんだよ」


 私は箪笥の上の弥勒菩薩像を見るともなしに見ていた。柔らかな輪郭。仄かに慈愛の微笑を浮かべる菩薩像を見ていると、心がほんの少し落ち着いた。

 隼太の突いた真実は痛かった。けれど隼太が悪い訳ではないことは明白だった。だから私は項垂れて、己を責める他なかった。聖の言葉は私を想うがゆえの慰めと感じる。

 優しさに甘えて生きていた。

 何と愚かしいことだろう。

「どえっふっふっふ。こと様あああ」

「はい!?」

 いきなり障子がすぱあん、と小気味いい音を立てて開いたので、私は驚いた。

「タコ焼きパーティー、しましょ!」

「え? でも今夜の食材はもう買っていて……」

「せやから明日。タコ焼き機、うちのを取り寄せますわ」

「はあ……」

「楓ちゃんもきっと喜びまっせ」

「…………」

「楓ちゃんはきっと知ってる思います。あの子は、聡明な子やさかい。せやから、こと様の愛情も嘆きも、全部吞み込んで、それでもこと様が大好きで仕方ないんですわ。こと様は、堂々と胸を張ってはれば良いんです。楓ちゃんのお母ちゃんは、こと様の他にはいないんでっせ」

 その時、丁度、室内に光が射し込んで、弥勒菩薩が淡く輝いた。私は、砂糖菓子のように甘い撫子のコトノハを、ぼんやりとした心地で服用していた。



ブクマありがとうございます。

8日はワクチン接種に参りますので、

更新は容態次第となります。

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