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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
続・宝珠争奪編 第二章
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鬼の所業

 弥勒菩薩像を、私は自室の箪笥の上にそっと安置した。この先、どのようなことになっても、見守っていてくれるように、願いを籠めて。その様子を楓が見ていた。

 私が目線を下げて小首を傾げ微笑むと、幼子のように私の腰に両手を回して抱きついてくる。時がないことを、この子ももう知っている。

 今年の初雪は見られるだろうか。

「ことさん。今日、一緒にお風呂入っても良い?」

「良いですよ」

「一緒のお布団で、眠っても良い?」

「良いですよ」

「ことさん。ことさん……」

「どうしましたか」

 葡萄(ぶどう)(いろ)の楓のワンピースの裾が揺れる。私があやすように尋ねた言葉に、楓は答えようとしない。肩が小刻みに震えて、さらさらの髪が揺れる。この子に、二度も母親を失わせてはならない。加えて私には、音ノ瀬の当主としての責務がある。

 だから私は、次の言葉を紡ぐのが辛かった。

「楓さん。音ノ瀬一族を、継いで欲しいと私が言えばどうしますか」

 楓が弾かれたように顔を上げる。その顔には色濃い恐怖があった。

 それでも私は続けなければならない。

「現状、宝珠が期限までに集まるかどうかは微妙です。もし叶わなかった場合、音ノ瀬家当主の座は宙に浮く。そして今の私に、音ノ瀬を継いで欲しいと願う相手は、楓さんしかいません」

「…………ひーくんじゃ駄目なの」

 とてもか細い声に、しかし私ははっきりと首を横に振った。

「聖さんは副つ家の人間です。貴方の後見を出来こそすれ、彼自身が当主となることは有り得ません。何より、一族が納得せず不満の声が上がることは必至でしょう」

「わ、たし。私は。ことさんがいれば、それで良いの。当主になってもならなくても、ことさんさえいてくれるのなら、私は、きっと何があっても笑っていられるのに、それだけではいけないの……」

 ああ、と私は心の中で呻いた。何と酷な仕打ちを、楓にしているのだろう。

「私が、只の一個人であればそれで良かった。ですが私は、色々と背負う身です。貴方の、」

 そこで込み上げたものを、私は無理矢理に吞み下した。

「楓さんの母親でだけでいられれば、どんなにか。叶わぬ夢と、解っていても思わずにはいられません」

 楓が顔をくしゃりと歪めて泣き出した。

「ことさん、お、かあさん、嫌、まだ、嫌、ことさん、ことさんを私から盗らないで」

 たどたどしい涙声は最早、理屈にならず、それゆえに私の心を強く打った。

 楓。

 私の大事な娘。

 その大事な娘に鬼の所業をしている私を、弥勒菩薩が静かに見守っていた。



ブクマをありがとうございます。

九藤の体調不良と、週末にワクチン接種に

行く為、更新が乱れると思います。

申し訳ありません。

皆さまに優しいコトノハが訪れますように。

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