リーフ
私は少し歩いたところにある森林公園の中のベンチに座り、文庫本をめくっていた。淡い茜の訪問着を纏い、帯は黒に近い紺である。夏の名残か陽射しが強い。日傘を持ってくれば良かったか。
「……なあ」
帰りに甘味処にでも寄ろうかな。
「なあおい」
「何ですか、恭司さん」
「やらされてることが意味不明なんだけど」
「良いから黙って南京櫨の葉の枚数を数えなさい」
「それに何の意味があるんだよ」
「集中力を養い雑念を払うのです。動きを見ていれば解ります。恭司さん、貴方、剣術は丸きりの素人でしょう。今まで持ち前の反射神経と体術だけでやって来た。天の構えや正眼、地の構えやらを教えても現状、意味がありません。いずれは身に着けていただきますが。それでなくても天響奥の韻流は独特の流派なのです。私にも焦りはあります。意地悪で遠回りをさせている訳ではありません。とにかく言われたことをしてください」
恭司の目に僅かに浮かぶ疑念。まあ、そうだろうな。
「手本を示してくれよ。先輩」
「師匠と呼びなさい。良いでしょう」
私は文庫本を置き、持って来ていた二本の竹刀の内、一本を恭司に向けて放った。残る一本を、緩く構える。
恭司の構えはまだ構えとすら言えない。それでも隙が少ないのは伊達ではないと称するべきところか。
「どこからでも良いですよ。打ち込んで来なさい」
恭司の身体がふ、と消えた。
高い跳躍。やはり彼は生まれ持っての高い身体能力に頼るところが大きい。
振り下ろされた竹刀を、私はあっさり払いのけた。バランスを崩しかけながらも恭司が着地する。
「……」
「気が済んだなら葉を数える作業に戻りなさい。この後は特別講師を呼んであります」
「特別講師?」
「ええ。天響奥の韻流は秘技ですが、彼女は伝授に関わることを許されている」
「彼女?」
「照美咲院撫子さんです」
恭司の顔が思い切り引きつった。
今日も少し冷えましたね。
九藤は湯たんぽさんと仲良しな日々です。
皆さまもお身体を冷やさないようにしてくださいね。




