君の顔が見えなくなる
あるところに仲の良い女の子と男の子がいました。家が隣同士で、親戚でもある二人は、よく一緒に遊んでいました。二人共、可愛らしい顔立ちをしていましたが、特に男の子のほうは、女の子と見紛う線の細い、整った顔立ちをしていました。意地の悪い子供の中には、二人を冷やかす者もいましたが、二人は笑って相手にしませんでした。
それはある晴れた春の日のことでした。誰もが惚けたようになる、麗らかな日和。近くにある祠に行こうと言い出したのは女の子でした。祠の傍では、一際、桜が綺麗に見えるのです。大人たちからはその祠に行くことは禁じられていましたし、祠に至る入口には何本もの注連縄が張られていました。しかし二人は、一緒にいれば怖いものなど何もないと考えていました。後で大人に小言を言われるくらいのことは慣れっこでした。それどころか二人は、祠に祀られているものを見ようとまで計画していました。子供の好奇心というのは、大人の理解を軽く超えています。
幾重にも張り巡らされた注連縄を掻い潜り、祠までやって来た二人は悪童のようににんまり笑い、顔を見合わせました。祠の扉に先に手をかけたのは女の子でした。女の子も男の子も、何があるかとわくわくしていました。しかし、扉を開けた先には、何もありませんでした。もぬけの殻です。二人は肩透かしを食った気分で唇を尖らせ、祠の扉を閉めました。
異変に先に気づいたのは女の子のほうでした。
〝芳江。あんたの顔が見えへん〟
〝何を言うてんねや、撫子。僕はここにおるやろ〟
〝けど見えへんねん。顔だけ見えへんねん〟
以来、二人が成長して大人になっても、女の子に男の子の顔は見えないまま。
さて。
見てもらえない悲しみと、見ることの出来ない悲しみでは、どちらがより大きいのでしょうか?
ブクマありがとうございます!
寒さでやや不調だったのが吹き飛びました。。
早く春になあれ。




