野良猫が爪を研ぐ
恭司は隼太のマンションでボストンバッグに荷物を詰め込んでいた。
「また家出か? 不良息子」
「うん。しばらくまた千秋のとこに世話になる。今回は長くなると思う」
隼太が目を眇める。
「お前の家は、本当はどこにあるんだろうな」
準備をしていた恭司の手がピタリと止まる。
「お前は選んだ筈だ。恭司。選別なくして行動は起こせない」
恭司は最後の荷物を詰め終わると、バッグのファスナーを閉めた。立ち上がり、隼太と目線を合わせる。
「俺は楓とあんたの両方を選択した」
「それは選択とは言えない。逃避だ」
「違う。覚悟が伴えば最も過酷な選択になる。けど、俺は選ぶ。どちらの手も離さない」
昨日、大海さんが作ったラザニアの残りが冷蔵庫にあると言って、恭司はバッグを手に部屋を出て行った。ドアの閉まる音がする。
「……」
隼太は部屋に立ったまま動かない。
恭司は楓を選ぶと思っていた。それが一番、幸福に近い。血臭の絶えない自分の傍にいては楓に気後れするだろう。ことも許すまい。何事につけて寛容なことだが、楓の幸せの為には一歩も譲らない。そして、このタイミング。
「天響奥の韻流か」
ことが、恭司を指名したと考えるのが妥当であると、隼太の鋭敏な頭脳は解析していた。しかしならば、尚更、隼太との関わりは絶つべきものの筈だ。あの流派は独特で、剣術でありながら穢れを嫌う。嫌う穢れの中には当然、血も含まれる。だからこそ解せない。血塗れの人生を送る隼太と繋がりつつ、天響奥の韻流を継ごうという恭司の意図が。果たしてことがどう思うか。
私は縁側に腰掛け、両脚を子供のようにぶらぶら揺らし、空を見ていた。
物悲しく澄んだ秋の空。
恭司は私の指名を受けた。修行の厳しさは前以て伝えてある。けれど……。
(ものにするのだろうな)
撫子の言葉。恭司の選んだ道というのを、私も朧気ながら察した。愚かだ。しかし愛すべき愚かしさだ。あれが、楓が選んだ男なのだ。風が私を撫ぜる。嘆くなよと言わんばかりに。
私に出来るだけの力添えはする。
後は恭司次第だ。
出逢ったばかりの頃の恭司が脳裏に浮かんだ。
孤高の野良猫のようだった。
ブクマありがとうございます!
寒の戻りか冷えた一日でした。
皆さま、暖かくしてお過ごしください。
ご感想への返信、遅れております。
申し訳ありません。
その分、より良いコトノハを処方してお返事いたします。




